第一次選考あと一歩作品詳細
選考委員:諏訪 潔
『サムうおーく』 春
うまい。書くことにはそうとう手慣れた感じ。主人公の野獣系OLや幼なじみの青年などのキャラクターの造型はくっきりしており、結末まで笑いながら楽しく読めるが、話の展開に意外性がなく(小さなエピソードに至るまで)、クライマックスも弱いのが残念。
『東河内寺』 角野龍千
ひと癖あるキャラクターを次々とくり出して、うまくからませ盛り上げていく技術は素人離れしたもの。全体に漂うおおらかさも大きな魅力だが、登場人物が元気すぎて、ロマンスの味がやや薄れたか。また、物語の中に安住してしまい、型を打ち破っていく新鮮さにやや欠けるのが心配。
『ユウリ』 毬藻三枝
NY生活や人物は充分にリアリティをもって描かれているが、つかみの弱さや展開の平板さなど、小説としてはいかにもパンチ不足。書く修練を積んで、もう一度この主題にアタックしてもらいたい。
『イッツ・ナウ・オア・ネバー』 結城和義
少年少女の淡い恋から、地球温暖化や核戦争の話題まで織り込んだスケールの大きな作品。しかし、ここまで風呂敷を広げすぎると、すべてのトピックにピントを合わせるのはさすがに困難か。作者のいいたいことは充分伝わってくるが、全体的に説教臭いのとおっさん臭い(失礼!)のが難点。
『オレンジと藍色の空』 河瀬まり
拒食症のディテールをそれほど暗くせずに描く手腕はなかなかのもの。しかし、哲というキャラクターの彫りが甘く(こんなヤツいない、とはいわないが、あまりにも都合がよい人物のように思える)、結末へ至る成り行きももうひとつ説得力不足。
『溶けない雪に舞って』 マリオ・トリビアーニ
高校生としてはなかなか高いレベル。しかし、やはり自分の頭の中でだけ組み立てた弱さが感じられる。ファンタジーだからこそ、その中にリアルが必要なことを君はよく知ってるはずだ!
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