第一次選考あと一歩作品詳細

選考委員:岡部 優子

『Another Rain』 水野未魚

つらい話なのに暗くも重くもないキャラクターと会話で、優しくて悲しい雰囲気が読む人の気持ちに訴えかけてくる作品だった。
リウがピアノを弾くことを知らなかったシュウが、ショウコが渡してくれたMDでリウのピアノを聞いて、泣いている自分に気付くところとか、墓参りに行って「この前ここに来たのはリウと一緒だった」と言ってショウコが泣くところとか、ショウコとシュウが手をつないで歩きながら「リウが生きていたら自分達二人はどうしていただろう」と思うところとか、何か所か心に響くシーンがあった。
面白くなる設定はできていると思うので、ちょっとだけ出て来て他の部分と関係ない登場人物や事柄があったりするあたりを整理してはどうかと思った。
ラスト近くなってリウ目線で書いた部分が出てくるが、それ以前でほとんどわかっている内容だという感じがした。また、シュウが高校へ戻ってからは、恋愛の話というより、友達とうまくやっていけない高校生がどうやって友達の中に入っていくかという話になっていて、それはそれで面白いのだけど、ショウコがほとんど出てこなくなってしまうので、構成を再考してみてはどうだろうか。


『風の譜』 河原治夫

越中八尾の「風の盆」の祭りの風景をバックに、親子二代にわたる恋愛が見事に綴られている。
レベルの高い作品で、文章もいいし、完成度から言えば当然通過させるべき作品だったのだが、本数を絞らなければならないということで・・・正直、迷った。
ただこの賞では主に若い女性向けのものを選びたいと聞いていたのだが、これはどちらかというと中年以降の読者にうける作品だと思った。
また、新しさという点から言うと、新しいというよりはむしろ落ち着いた作品という感じがした。
悠子が、達と自分がきょうだいかもしれないと思うところは、ちょっとあっさり信じ込みすぎかもしれないと感じた。


『帯 〜おび〜』 西川百々

日本舞踊の世界のことが力量のある文章で書き込まれている。この作品に限らないが、普通の人がよく知らない世界のことが描かれていると、興味深く読み進められたりする。
途中で、杏子が別荘で暮らしていて寿美が痴呆になっているところまで飛んで、その時点からそれまでのことが語られるという構成になっているようだが、そんなに凝らなくてもいいのではないかと感じた。むしろ時間を追って杏子と慎也の関係のエピソードや杏子と慎也の気持ちをもっと多く積み重ねて描いていった方がよかったのではないだろうか。
その方が、ここまで心身ともにボロボロになってしまう杏子の気持ちについても、20年経ってなおこんなに激しい復讐を企てる気持ちについても、説得力が増すと思う。


『人魚の村』 中嶋ほづみ

横溝正史のあのおどろおどろしい世界を思わせるような作品で、よくこれだけ作りこんだなあ、すごいなあ、と思った。
推理小説の形式ではないけれど、ラストに向かって実はこうだったのか・・・とさまざまな真実が次々に明らかにされていって、読みごたえがあった。
古い因習に縛られた村を滅ぼすことを決意していた主人公の雄一郎と姉の死因を究明しようとしていた花嫁の蓮子が、事件を通じて次第に愛し合うようになっていくだけでなく、現在の事件も、また昔起こった事件も、恋愛が原因になっていたり、男女の関係がさまざまに絡まっている。だからもちろんラブストーリーなのだけれども、ただ、今回の日本ラブストーリー大賞の、しかも第1回受賞作としてこういうカラーのものが選ばれるか・・・と考えると、ちょっと難しいかもしれないと思ってしまった。


『見えない一等星』 永田由貴

病院へ行くラスト10ページは泣けるし、表現もいい。彼女は死んだと思っていたら脳死だったと最後に明かされるが、彼女の前で「彼女は死んだ」と晃一が僕に言ってしまった時の彼女の傷ついた表情や、彼女の晃一を見る温かいまなざしがそこへ来て効いてくる。「私は大丈夫、これでも結構幸せなんだよ」と彼女が言っていたと僕が晃一に話すあたりも泣けるクライマックスになっている。
自分は逃げたと言っているが解放されたわけではなく苦しんできた晃一の気持ち、彼女の両親の悲しみと疲労と穏やかさ、僕たちの周りに現れた彼女はその間生死の境をさまよっていたんだと思う僕の気持ち、彼女が死んでから思っていた以上に彼女を好きだったと気付く気持ちなど、人の気持ちを繊細にとらえている。
ただ、それ以前の部分がちょっと平凡な印象を受けたので、平板にならないように、彼女が見えない存在だということをどうやって表現するか——どうやって気付くか、どんなに驚くか、なぜ信じるか——がもっと面白くならないか工夫してみてはどうか。また、なかなか話が進まないので、ゼミや由佳の話より、彼女と僕、彼女と晃一の話をもっと進めた方がいいのではないだろうか。僕が彼女を好きになったというところからもっと僕の気持ちや行動を膨らませられそうな気がする。でもなぜ僕にだけ見えるのだろう・・・。


『マイケル。』 ミャタケイ

すべてを書いてしまわずに謎をもたせた書き方をしながら進めていくあたりに作者の文章力を感じた。先へ読ませていく力がある作品である。
僕の生い立ち・家族のこと、最後のデートでバイク事故を起こして涼子が足を切断したことなど、僕の過去を書いた部分はとても読みごたえがあって、一次通過させたいところだった。
ただ、それに比べると、前田という刑事やマリたちなど、今現在、僕のまわりにいる人間について書かれた部分がもう一つ薄いかもしれないと思った。ラストに近くなったあたりからが少し弱い感じがした。
それと、欲を言えば、兄の本当の気持ちは語られるが、それ以外の母や父、涼子とは再会することもなく終わってしまうので(会う、というのじゃなくてもいいけれど)、今起こった事件は最後に種明かしされたけれど、もっと重い過去の事件が解決されきっていないような感じを受けた。

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