第一次選考通過作品詳細
『埋め込み式。』 佐々木 やち
捕らえた「彼女たち」を「逃がしてあげる」といいながら、自殺を促し殺してゆく「彼」。「彼女」を最後の一人として生かしておきながら共犯者に仕立てるが……。「忘却」は、繰り返される毎日のためにある。二度と忘れられない思い出は、忘却から逃してやるようにそっと隠される。殺人と忘却の幻想曲。世界が代謝を図った瞬間を描いた究極のラブストーリー!
選評:町口 哲生
まず自殺させてしまった「彼女」の原因となった「彼」は、自分を制裁するために捕らえた女性を「逃がして」いくという設定や、作者独特の世界観が素晴らしかった。新聞記者の「彼」、共犯者? の「彼女」、秘密を共有する「友人」、「逃がして」いく「彼女たち」などなどキャラクターがとても魅力的。またセリフも「記憶は。思い出せることだけで十分よ」とか、「命の終わりを見たことがある?」とか、何げないきめゼリフがあるし、うまく会話にメリハリをつけて物語が展開し、最後までテンションを下げることなく読ませた。
文章力、描写力ともに素晴らしいし、ヤマ場からクライマックスにかけてきちんと計算されており、構成力も申し分がない。要するに、難点らしい難点が見出せなかった。総合的にいえば、私が担当した作品の中で、もっとも作品の完成度が高かった秀作。メタフィクション的な要素が強いフィクションといえ、いわゆる「セカイ」系的な設定も違和感なく、むしろ今の時代の感性に合っているのでは。16歳の佐々木やちは、久々の大型新人といえるのではないだろうか? 文句なしの一押し!
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