第一次選考通過作品詳細

『神様よりいい男』 杉山 未来

両親の離婚を機に母と二人暮らしをしていた主人公、咲子は、母親から愛情をまったく与えてもらえず、そのさみしさを男性との体のふれあいに求め、さらに心身ともにぼろぼろになっていた。ある日夕立の最中に現れた男性、マモルの家にころがりこんだ咲子は、初めて真摯で誠実な男性を見て、本当の安らぎを知るようになる。一緒に過ごすこと1週間、咲子は家族で過ごしたもっともあたたかい思い出の場所、お墓にマモルを案内し、思い出の墓参りの様子を伝えようとするが……。実は咲子は1週間前に自殺し、このお墓に眠っている本人だった。皮肉にも死んだあとに、日常の安らぎを得て満足した咲子は現世での感謝の思いを胸に、やがて消えてなくなってしまう。この世とあの世の中間地点で起こる、人生最後のとっておきのプレゼント。


選評:久次 律子

もしそれまでの人生で不服なことや満たされないことがあったまま死んだ場合、死後1週間でそれを埋め合わせてくれる出来事が起こり、満足感を得て本当の死を迎えることができたら……。そんな願望を満たしてくれるファンタジーワールドである。
本作品は構成が巧みに組み立てられていて、全体を俯瞰しながら冷静に書き進められる著者の技量を感じた。咲子の寂しい出来事とマモルとの温かいやりとりがバランスよく組み合わさっていて、リズミカルな筆致に吸い込まれるように読み進められた。また描写に奥行きがあり、特に親の冷たさとそれと向き合う子どもの押し殺した悲しさには深々と心に響くものがあった。全体を通じて滑らかな語り口であるため、冷酷な箇所はより冷酷に、温かい箇所はより温かく感じられるのも文章力のなせる業と感じた。
一つ一つの空間、空気、主人公の息づかい、味、風景などさまざまな光景が鮮やかでリアルである。
悲しいような、温かいような、すがすがしいような、やるせないけど前向きになれる、まるで長雨が上がって日がさしはじめた時のような読後感だった。

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