第一次選考通過作品詳細

『ヤー リュブ リューティ ビャー』 大倉 直

ロシア人の少女ターニャは、両親が政治的な事件に巻き込まれ、単身アメリカに渡ってきた。日本人の少年誠也は、離婚した父親を探しにアメリカへひとり旅立つ。街で出会ったふたりは、言葉が通じないながらも、行動を共にしはじめる。父がなかなか見つからず焦る誠也は、あるときターニャが街の男たちの相手をすることで金を稼いでいるところを目撃し、ショックを受ける。誠也の父親はアイルランドの大学で働いていることがわかり、ターニャはどこからか大金を調達してくる。誠也は自分がその金の秘密を知っていることを胸の中に封じ込め、ふたりはアイルランドへ向かい、誠也の父親と再会する。ふたりは将来を誓い、誠也は日本に戻り、ターニャは父親のもとで暮らすことになった。


選評:諏訪 潔

ロシア人の少女ターニャと日本人の少年、誠也のアメリカを舞台にした12歳の異邦人同士の気持ちの交流。ラブストーリーとはいえないものの、よく書け、よくまとまっている。誠也が、自分のずるさを告白しないことを決心するところは胸をつかれる。全体に描写が淡白なこと、キャラクターが今ひとつ立っていない感じが残るところ、小説全体を成り立たせるリアリティが確信しきれない(少年だけでアメリカに渡ることなど)、といったうらみは残るが、充分大人の鑑賞に耐える力作。

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