第一次選考通過作品詳細

『たすけてください』 町井 登志夫

大学卒業間近のコンパで水谷健志は、二人の女性と知り合った。ひとりは美人で、快活で、その場をもりあげようと気を配る優美。もう一人は地味で内気な香鈴。対照的だが仲のよい親友同士だった。健志はどこか凛とした部分のある香鈴に心が動きつきあうようになり、香鈴を通し優美とも友情を結ぶ。
ところがある日、デートの場所に香鈴は現れず、忽然と姿を消した。ごく普通に自宅を出、約束の場所に向かう道で香鈴になにが起きたのか──。
香鈴の行方がわからないまま年月がながれ、やがて優美と健志の友情が愛情に変わったころ、警察から香鈴が発見されたという連絡が入った。彼女は一年半もの間、ひきこもりの男に監禁されていたのだ。痛々しい香鈴を見つめ、自分を責めつづける健志と優美。二人の関係を察知する香鈴。香鈴も優美も相手のことを思いやり、一度は姿を消そうとする。香鈴をひきとめたのは健志の、そして優美をひきとめたのは香鈴の、「たすけてください」という言葉だった。


選評:三村 美衣

著者は既存の作家で、ホワイトハート大賞、小松左京賞を受賞、このミス大賞落選作『血液魚雷』も「このミス大賞落選」を堂々と謳い早川書房から刊行されている新人賞キラー(というほど受賞には至っていませんが)の町井登志夫。これまでの作品傾向を考えるとおおよそラブストーリー向きではないし、作品数もかなりの数にのぼる既存作家なので「ちょっと厳しめに」と思って読みはじめたのだが、自力がある作家で作品全体のバランスがいい。
登場人物は一人の男と、親友同士の二人の女。三人が三人とも互いのことを心配しいたわり合う優しい三角関係もの。ともすると甘くなりがちなテーマを、誘拐監禁事件を絡めることで、ドラマチックに演出している。女ふたりの造形の差も面白い。不満は香鈴再登場後のボリューム不足だ。事件の被害者である香鈴の自己回復にもう少し筆がさかれていてもいいのではないだろうか。

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