第一次選考通過作品詳細

『カフーを待ちわびて』 原田 マハ

舞台は沖縄の離島・与那喜島。雑貨商を営みながら淡々と暮らしている友寄明青(35)は、ある日、「幸」と名乗る女性から思いがけない手紙を受け取る。明青が旅先の神社に、ほんの遊び心で残した絵馬の言葉、「嫁に来ないか」を見て、結婚したいというのだ。そして3週間後、幸が現れ、明青の家に住み込んでしまう。戸惑いながらも、溌溂とした幸に思いをつのらせる明青。折しも島では、リゾート開発計画が持ち上がっていた。明青は反対する少数派のひとりだったが、幸が一緒なら新しい生活に飛び込んでいけると思い、一大決心をする。しかし幸には、明青に打ち明けていない秘密があった……。


選評:彌永 由美

今回読ませていただいた作品のなかでも、本作は忘れられない1作だ。
ものすごいインパクトがあるわけでも、主人公がものすごく魅力的、というのでもない。
なのに、冒頭の1ページを読んだときから、すうっと物語の世界に入りこんでしまう。気づくと主人公・明青のすぐそばで、与那喜島の彼の小さな家の縁側で、彼の犬がエサを食べている様子をじっと見守っている、そんな気にさせられる。
カフーというのは、島の言葉で果報、幸福という意味だそうだ。 
島で淡々とした暮らしを送りつつ、明青はいつか自分に「カフー」……幸せが訪れるのを、待っている。非常に受け身である。35にもなって浮いた話のひとつもない、というのもうなずける。でも、彼の暮らしぶり、スローだけれども自然に反さない生き方は、読み手にとって魅力でもある。作品にも描かれているけれど、沖縄の島々に憧れ、「本土」からふらりとやってきては定住してしまう人たちがおそらく感じているであろう島の魅力と、それは通じているのかもしれない。
いつも受け身だった明青は、幸と出会ったことで、そして村が変わっていこうとする過程で、ようやく自分からカフーをつかみとろうという勇気を得る。そこに至るまでのゆるやかな流れ、絡みあっていく人たちがもつ生き生きとした輪郭、そしてささやかだけれど確かな、隅々まで目配りのきいたエピソードの積み重ねのなかに、書き手の力を感じる。
読み終えたら、まず大事な人の声が聞きたくなる……そんな作品だ。

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