第一次選考あと一歩作品詳細
選考委員:彌永 由美
『エアーフィッシュ』 中平由美
主人公が徐々に恋心を抱いていく、その微妙な気持ちのグラデーションがよく出ていたと思う。エアーフィッシュのたとえもうまい。こじんまりまとまってしまった感があるのがちょっと残念だった。
『闇のしずく』 河野敬子
舞台となる町をきめ細やかに描き、ヴァンパイアの一族をすんなり溶け込ませているところがうまい。脇を固める人たちは生き生きしているのに、肝心の恋人たちが少しおとなしかったかな、という印象が残った。
『空知らぬ雪』 香田織吉
人生の意義や、人を愛することの意味といったテーマを、寓話的な世界にうまく解き放した作品。書きたいことがはっきり見えている人だと思う。構成を少し考え直してみると、物語ももっと生きてくる気がする。
『百人のロミオ』 藤森絢
へたをすれば荒唐無稽にもなりかねない設定なのに、読み手を納得させ、読ませてしまう牽引力があった。主人公を丁寧に描き出していることで、リアルさも出たし、彼に共感もできたのだと思う。
『調子っぱずれのロケンロー』 美津かつ恵
ジョニーというキャラがとてもお茶目で、書き手の愛を感じるし、「ロケンロー」魂もよく伝わってくる。クライマックスの作り方を再考すると、物語の膨らみが増すのでは?
『君は写真の中で微笑む』 桜井智子
老婦人のかつての恋と、その孫娘の今の恋をうまく絡ませ、ドラマティックに仕上げている。が、恋人を引き裂いた「嘘」に説得力がないのが残念。物語が大きく展開する場面なので、もっと大事に描いてほしいところだ。
今回読ませていただいた作品全般について言うと、設定なり、人物なり、シーンなり、何かひとつおやっと思わせる要素がある作品というのは、決して少なくはなかった。それがうまく作品の中で機能しているかという点で、かなりばらつきがあったように思う。どのようなきっかけで小説を書きはじめるのか、作業のしかたは人それぞれだろうけれど、書きたいテーマや人物が浮かび、書きたいシーンが浮かび、物語を展開するうえでのちょっとしたアイディアが浮かんだら(あるいはそれらのうちのどれかひとつでも)、実際に書きはじめる前に、それをもう少し大事に育ててほしいなと思う。次回もぜひ頑張って!
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