第一次選考あと一歩作品詳細

選考委員:林 巻子


“理沙は、姉の笙子にスペアの腎臓を提供するためにつくられた子供だった。ドナーという目的のために、両親が「製造」した命だった” という自己存在に足下から揺さぶりをかけるような設定が劇的だと思いました。あらかじめ失われた何かを取り戻そうとするかのように姉の恋人を誘惑する理沙の行動にも悲しい説得力があります。せっかく腎臓を譲りうけた笙子が交通事故という不慮の事故で死んでしまう急展開も皮肉が効いていると思います。そして、かつては姉の恋人であった勇司の愛を獲得することで、自分は何者かのスペアなどではないのだという確信と、生まれて来たことへの感謝の念(=自己存在の肯定)にまで至ることが出来たという終わり方も含め、概要を読んだだけでもとても面白い作品だと思いました。ですが実際に作品を読んでみると、何か物足りない感じが残りました。作者はあえて淡々とした筆致でこの作品を仕上げようとしたのでしょうか。姉妹二人の異なるタイプの女性のキャラクター描写や彼女たちが昼と夜に見せる表情の変化などにはナイーブで官能的な味わいがありましたが、表題にもなっている「スペア」というテーマに触れる部分にもっともっと肉迫して欲しかったです。プロットが劇的なので、それに匹敵する何かしらの強度を期待してしまうのだと思います。

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