第一次選考通過作品詳細

『恋は誰に溶けたか』 相川 和彦

高波は3年前、結婚の約束をしていた亜希に逃げられ、劇団仲間の目黒たちと会社を作る。結婚を前にした人達を相手に、演技で人を騙して、思いを告げられずに終わった別の相手の気持ちを調査したり気持ちを伝えさせたりする仕事だ。絵画サークル講師・浜崎の依頼を調査するうち、サークル仲間には精神科に通院していた女性達もいて、以前亜希もサークルにいたことがわかる。一方、目黒は劇団仲間で3年前にバイク事故で死んだ沢田と同棲していた女・唯と出会い、実は沢田が高波に亜希を奪われ劇団でも冷遇された腹いせに亜希をレイプし、そのせいで亜希は高波から去っていったことがわかる。仲間たちは、いつもは人を騙している高波をはめて亜希と再会させ、2人は再び愛し合うことを誓う。


選評:岡部 優子

このまま二時間ドラマになりそうな感じで、完成度が高い。実はそうだったのか……と、事実がわかっていく面白さもうまく仕掛けられている。ラストに向かって盛り上げていく構成力もあり、達者な書き手だと思う。
ただ、うまいけれど、読んでいて重くこちらの身に迫ってくる感じが、下手だけれど捨てがたい他の作品より薄かった。沢田という人物については彼の気持ちが強く伝わってきたのだけれど、主人公の高波についてはもうひとつ弱いかもしれないと思った。欲を言えば、だが……。
それとこの仕事がなぜ依頼人の相手を演技でだますという方法を取らなければならないのか、という必然性が感じられないと、安っぽいドラマになってしまう。設定としては面白いと思うけれど、前半ちょっとそう感じた。

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