第一次選考あと一歩作品詳細
選考委員:神田 法子
全体を通して、既存の要素の組み合わせに終始した小説が多いのが気になった。小説における新しさとは、ひとつひとつ言葉を積み上げていくことによってしか生まれないもの。自分にしか書けない”小説への意志”を感じさせる作品を一次通過に選ばせていただいた。また残念ながら選出に及ばなかったものの光る何かがあった作品をいくつか。
『時間の記憶』 柊木香菜美
可愛らしい恋の話と自分のルーツ探しがバランスよく構成されている。ラスト、少し重い陰を投げかけつつ、ポジティブに生きる決意をした上でのハッピーエンドというのがありきたりでなくていいかも。もっと世界観を深めた次作に期待。タイトルはもうひとひねりを。
『彼女は月のように輝く』 暁
主人公の飄々とした変人ぶりや、登場する架空の歌詞などに言葉のセンスが光る。ヒロインのトラウマがやや平凡に帰結しているのが残念。
『水平線』 川上途行
数多い闘病ものの中でもひとつ抜きんでいた作品。必要以上に悲劇に仕立て上げず、冷静かつ深い愛を持った視点でしっかり心理描写がなされているのは、作者が若い医師だからか。設定を工夫すればもっといい作品が書ける人だと思う。
『Time goes by』 倉元亮一
過去と現在が重なるイメージ的な描写が美しく印象的。冒頭の堅さがやや気になった。
『南北朝の約束』 細田弦作
設定・文章共に達者で引き込まれた。主人公にもっと存在感があるとよい。
『あるいはジャンプとサッカーの日々』 コユキミキ
老婦人のかつての恋と、その孫娘の今の恋をうまく絡ませ、ドラマティックに仕上げている。が、恋人を引き裂いた「嘘」に説得力がないのが残念。物語が大きく展開する場面なので、もっと大事に描いてほしいところだ。
『More Than This III 雨の日は雨を楽しみ』 篠田結李花
40代主婦がヒロインの整体ラブストーリーで、過去の恋への決別と自分探しがシンクロしているところに新しさを感じた。語り口は甘ったるすぎるかも。
簡単にありがち(で失敗しがち)なパターンと対策(?)を挙げておく。
「”虐待”や”レイプ”"中絶”などの事象を小道具的に使っている」
想像力の貧困さに読んでいて悲しくなる。そんなもので読者に”衝撃”は与えられない。
「偶然に頼りすぎ」
相手を強く思っていれば奇跡的な偶然が起こる展開は否定しないが、すべて偶然、偶然ですませてしまうのはいくら何でも手抜きでは? 偶然はあくまで展開の起爆剤に、もしくは偶然を引き起こす”引力”の核をディテールからしっかり構築して。
「すべてを描こうとする」
例えば幼馴染みの二人が結ばれるまでのストーリーで、時系列に学校であったこととか当時の出来事とかすべてを描く必要はない。小説では”何を書くか”は大切だけど”何を書かないか”も重要。以上、小説に情熱をもって臨む皆さんの少しでもお役に立てば、と思う。
→ 一覧に戻る