第一次選考あと一歩作品詳細
選考委員:暁 みちる
『ライフ・マン』 真柴 楊
生命の再生ができる不思議なベルトというキー・アイテムがユニーク。ニューヨークで生きる日本人男性を主役に、友人や恋人との日常がナチュラルに描かれ、手に汗握るクライマックスや穏やかなラストシーンとのメリハリもほどよくきいている。人間のあたたかさ、一度失えば取り戻せない(はずの)命の重みがストレートに伝わってきて、個人的にとても心惹かれた。ハリウッド的なファンタジック映像もすぐにイメージできるが、ラブ・ストーリー性が少々弱いと感じ今回は惜しくも選外とした。
『月の彼方』 筒井陽香
主人公の少女とキュートな宇宙人少年の心の交流を軸に、『竹取物語』を思い起こさせるようなSFファンタジー。リアルなティーンエイジャーの世界観と完成度の高い大人びた文体が、不思議なバランスで魅力的だ。背伸びせずに書いた17歳らしい作品で好感が持てるが、ストーリーはやや先が読める感があるので、もう少しユニークさも盛り込んでみては?
『セルフォン・ラブ』 島村幸子
パート1、パート2の2編から成る長編。細川ガラシャの伝説をからませつつ、クローン人間をテーマにしたパート1が興味深かった。劇中劇の脚本をバランスよくちりばめた構成もよく、場面とムードの切り替えが効果的に行なわれる。ただ、吸血鬼伝説をモチーフにしたパート2との関連性が乏しく、両編ともにラブ・ストーリー性が強く感じられなかったのが残念。
『ふらんす小唄』 營野ゆか
24歳の筆者が、時代に翻弄された戦時中の若者たちの物語をリアルに描けている点に感心。ただし時おり現代風の話し言葉になるのが惜しい。また、導入部は現代の大学生の視点なのに、彼が出会った老人の昔語りが始まるとその回想録がすべてになってしまい、大学生の存在が完全に消えてしまうのは不自然だろう。
『永遠を望んだ砂時計』 芦崎 凪
不治の病というテーマはありきたりだが、命の残りを象徴する砂時計と不思議な少年(夢の中の幻?)の存在や、死を覚悟した女性が記す詩や小説など魅力的なモチーフが多い。絵画的美しさを感じさせる描写や、独創的な擬音・擬態語も斬新だった。
最後に全体を通しての感想だが、より劇的な展開を狙うゆえか「自死(殺)」「事故」をからませた作品が多く、読むたび「あぁこれもか」と辟易したのが正直なところ。愛と死は確かに永遠の大テーマではあると思うが、命を単なる「盛り上げ用小道具」として扱ってほしくはない。人間の「生」をいとおしむ、そんな作品をもっと読みたい。
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