第一次選考あと一歩作品詳細
選考委員:横須賀 零
1970年代の石垣島を舞台に台湾系島人男性の生活と恋をつづった『ミーニシ吹いて』、「日本一ネガティブな女」と「日本一ポジティブな男」の恋をファンタスティックなトーンで描く『星々の満ちる夜』、フィギュアスケート界と音訳ボランティアの世界を背景に母娘それぞれの恋をカットバックで描く『笑顔で七難隠す』、水商売を副業とする男女が自己を取り戻すまでをドラマチックに描いた『ミズタマ』、いずれも素材に魅力があり、技術的に優れているものの、洗練させる余地があるので推敲を望みます。現状ではもったいないです。この機会に作品の可能性を追求なさってください。他の作品については大幅な改稿が必要であると判断しました。例を挙げれば、老若男女入り乱れた性のカオスを描く『人愛荘の女神』には物語のさらなる発展が、性同一性障害者の「彼」との恋愛をつづった『あなたを、ください』には腰を据えた取材が、姉に恋人を奪われた女性の嫉妬と復讐を描いた『京の雪化粧』には本質的な熟成が、ケルト伝説と座敷童子伝説を結びつけた『あの夏夜に消えた影は』にはアイデアに相応しいプロットが必要でしょう。
拝読した範囲では、私小説風の、けれども未熟な作品が少なくありませんでした。私小説ならなおさら読者を意識して書くことが大切だと思います。またそれ以上に、トレンドを反映した癒し系作品──ノスタルジア、スローライフ、あるいはエキゾチシズムの魅力を織り込んだもの──が目立ちました。メインキャラクターにエスニックマイノリティやアマチュアミュージシャンを置いた作品が多かったのも偶然ではないでしょう。トレンドの要素を取っ払っても自立する作品はさておき、トレンドに頼りすぎた作品は単なる副次的な現象に終わってしまい、埋もれる危険性が高くなります。キャラが人種や職種の”お約束”に縛られ、奥行きのない、カリカチュアに近いステレオタイプに終わっている場合も同様です。現代という時代を描くのであれば、トレンドを開拓するくらいの気概と自信を持つべきです。恋愛小説には流行を生むポテンシャルがあるんですから。第2回「日本ラブストーリー大賞」には、どうか野心を抱いて臨んでください。
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