第三次選考通過作品詳細

『恋をしないセミ、眠らないイルカ』 サトウ サナ

主人公のマザ(=イルカ)は、じいちゃんの死を見届けたあと、遺言で頼まれたエロ本を捨てに裏山にやって来て、自殺しようとしている美少女みらい(=セミ)に会う。思いとどまってくれるよう説得しているうちに、彼と彼女はお互い分かり合える存在だと気づく。命を救ったお礼として彼女の家に遊びに行くことになり、美人ママに気に入られる。セミの家は大地主の資産家なのだが、慎ましやかなマンション暮らしをしており、謎に満ちている(何度か家を訪ねるうちにいくつかの謎のヒントに気づく、セミが不登校児であることもわかる)。マザにはもう一人、真樹という幼馴染みのガールフレンドがいた。さばけた性格の真樹は男関係のトラブルが絶えず、マザも巻き込んだ”勝負”が行われる。たくさんのことが起こった十七歳の夏……。10年後、マザは殺人未遂容疑で警察にいる。彼は動機を語り始める。そこには深いセミへの想いが……。


書店員評

登場人物の個々の物語が重層的に重なっていく冒頭の語り口から物語に引き込まれます。そして、それらの物語がうまく連鎖していて最後はひとつになっていくところ、よく出来ているなぁと感心しました。
(紀伊國屋書店/白井恵美子さん)

登場人物たちのキャラクター配置にも配慮が効いていて、自殺、いじめなどの題材を扱っていながら深刻になることがなく、多少のユーモアの中でそれらをしっかり考えさせる力を持っていると思います。タイトルには“一考の価値あり”かもしれませんが、この作品は商品としても「売れる」作品だと思いました。
(ブックファースト/八木岡由香さん)

文体がきれいなのでそうは感じないけど、けっこう起伏のあるストーリーで楽しめました。でも、途中でついていけなくなる人も中にはいるかも。
(丸善/上村祐子さん)