第三次選考通過作品詳細

『雨の日の、夕飯前』 中居 真麻

主人公・春子は29歳。夫から与えられたマンションで1人暮らし。バレエ教室で教えている。身の回りで起こることはすべて幸福でも不幸でもなく静かで孤独で気ままな生活である。夫は詩人で春子のことだけを愛してくれているが、春子は夫を全く愛していない。夫のことは「先生」と呼ぶ。春子には恋人・直彦がいて、夫はそのことを知っているが、直彦は春子が結婚していることを知らない。直彦は真面目な男で春子の部屋を訪れるたびセックスするが、妻と息子がいる。春子は弟・朝夫を溺愛しており、また、母とはもう6年間口をきいていない。ところが、直彦の妻の浮気がきっかけで直彦は去っていき、夫からも離婚を言い出され、弟にも恋人(男)ができて、春子は一気にすべてを失ってしまう。


書店員評

江國香織さんの小説に似た雰囲気を持った、とても読みやすい作品。文章の一字一句まで気を遣ったあとが感じられ、好感が持てました。
(紀伊國屋書店/白井恵美子さん)

経済的に支えてくれる「詩人」の夫がいて、しかも身も心も満たしてくれる妻子持ちの恋人もいるという、とても理想的な生活。でも、その満たされ感と、どこか安定感を欠く危機感とが最後まで読む者の興味を引っ張ります。これは、なかなかの完成度。
(ブックファースト/八木岡由香さん)

主人公春子が恋をする妻子持ちの男性に、少し魅力が感じられなかったのが玉にキズだけど、主人公のマイペースで、どこかアンニュイなキャラクターには共感しました。文学好きの少女にはたまらない?
(丸善/上村祐子さん)