第二次選考通過作品詳細

『恋をしないセミ、眠らないイルカ』 サトウ サナ

主人公のマザ(=イルカ)は、じいちゃんの死を見届けたあと、遺言で頼まれたエロ本を捨てに裏山にやって来て、自殺しようとしている美少女みらい(=セミ)に会う。思いとどまってくれるよう説得しているうちに、彼と彼女はお互い分かり合える存在だと気づく。命を救ったお礼として彼女の家に遊びに行くことになり、美人ママに気に入られる。セミの家は大地主の資産家なのだが、慎ましやかなマンション暮らしをしており、謎に満ちている(何度か家を訪ねるうちにいくつかの謎のヒントに気づく、セミが不登校児であることもわかる)。マザにはもう一人、真樹という幼馴染みのガールフレンドがいた。さばけた性格の真樹は男関係のトラブルが絶えず、マザも巻き込んだ”勝負”が行われる。たくさんのことが起こった十七歳の夏……。10年後、マザは殺人未遂容疑で警察にいる。彼は動機を語り始める。そこには深いセミへの想いが……。


──ほとんどの委員の方が○ですね。
神田
これは一次審査で私が選びました。すごく好きな作品だったんですけど結構変な小説でもあるので、みなさんがこんなに支持してくださるとは思わなくて。みなさん、ひょっとして変ですか?(笑)って思ったんですけど。
町口
いや、面白かったですよ、これは。
三村
私はこれが一番よかった。
神田
それは嬉しいです。わりとぶっとんだセンスで「資産家のおじいちゃんがスーパーの前で焼き鳥を焼いていて、しかもそこでは●●●を養成している」とか、何なんだ!って。そういう新鮮な驚きがありつつ、話としてはひとつしっかりまとまっており、非常に面白いなと思いました。
──三村さん、一番よかったというのはどういう点でしょう。
三村
日本ラブストーリー大賞は枚数制限が200〜400枚なので大長編の大河ロマンみたいな形には絶対にならない。そうするとどこかセンスの面白さがないと目立たないというのがあって。そういう意味では語句=言葉のセンスで突出していましたね、この作品は。ただし結末が、ちょっと疑問。ずっとポップに来ておい て、このベタな結末はどうなんだろう。
町口
同じく、僕もこの作品はいい印象が残ってるんですが、メモを見てると、ラストがイマイチって書いてるんですよね。今、三村さんもおっしゃったようにポップだし、センスもいいし、金城一紀の小説をはじめて読んだときのように、何か新しいし。それが何でこういう終わり方するのかなあ、って思いましたけど。
横須賀
僕は逆にトーンが変わってしまうという意味では面白かったですよ。コミカルに続いていたのが、ガラリと暗くなって。
神田
物語っていつか終わらせなくっちゃいけないから、ラストってすごく重要な課題なんですね。「終わらせなくっちゃ!」って思ったのが見えちゃうというのは新人原稿にはよくあることで。
町口
終わりはともかく、この小説が本になったとして、パート2も期待できるような世界の広がりはありますね。
岡部
構成力も優れていますね。よくこれだけいろいろなことを少しずつ、つなげていきながら、全体を見渡して創りあげていけるな、すごいなと思いました。
彌永
ラストは、わからないでもないかなと思う部分もあるし、許容範囲とも思えるし。でも今回読んだ中では、これはすごく好きで、いい作品だと思いました。語り手の立ち位置がまず、いいなと。読んでいて、ずっと寄り添っていけるというか。誰に対しても、つねに一定の距離を保っている、その身の置き方に好感がもてるし、だからこそ、それがときどきブレるというか、こころの針が振れてしまうと、その揺れが、こちらにもしっかり伝わってくる。人と人とのやりとりの、余韻みたいなものもいいですよね。

ポップさもそうなんですが、切なさ的にもほどよくて、恋人とは違う十代のあやうい感情を男女とも持っていて、でも深刻にならない、という感じで進んできたので、やはりラストで死というアイテムに頼ってしまうのか、という感想はあったんですが。でもそれ以外は気持ちよく読み進めていけました。
──諏訪さんは△ですね。
諏訪
うん、やっぱり「スーパーの前の焼鳥屋で●●●を養成している」とか、それは端的にいって、ないよ! 全体によく書けていると思うんだけど、そういう傷が目についてしまって△にしました。二次通過作品に残るのは問題ないと思うんですが、積極的には推せないですね。
横須賀
僕はそういったハズシというか、リアリズムからの逸脱を魅力と捉えましたね。ダークなユーモアとパトスとの不思議なバランスも含め、傷というより、作者の余裕の表れであり、技巧だろうと。いまこうして●●●の話題で盛り上がっているのも、その証じゃないかと思います。

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