第二次選考通過作品詳細

『不器用な詩人』 星月 むく

主人公のサラ(22)は自分の書く詩を渋谷の路上で売っている。7歳の時に大好きな母が家を出て行ってしまったことと、16歳の時、サラが「大好き、今すぐ会いたい」と告げた直後に恋人が交通事故で亡くなってしまったことが原因で、サラは自分の思いを口にできない。サラの詩に出てくる「きみ」はその恋人のことだった。そんなサラに「きみのきみになりたい」と思いをぶつけてくるバンドのボーカルの男・亜樹。サラも亜樹に惹かれるがどうしても好きと言えない。サラの幼馴染で、茅ヶ崎で雑貨屋を経営する優子はサラから亜樹を取ろうとする。2人の前から姿を消したサラは、亜樹のことを綴った詩を書きはじめ、メジャーデビューを果たした亜樹はサラへの思いを歌うのだった。


岡部
心に傷を抱えていて、人と関わることが怖くて、自分の気持ちを外に出せない主人公の気持ちを繊細にとらえていて、私は好きな作品だったんですけど。
町口
これは今人気の矢沢あいさんの「NANA」の亜流に見られてしまうし、比較すると「NANA」の方が面白い。よくあるパターンといえばパターンなんですよ。
神田
でも、きれいな話ですよね。きれいにまとまりすぎてる感はあるけれど、切実な感じがあって、好感は持ちました。気になったのはセリフ回しで、バンドマンの男の子が「やりィ!」とか言ってるんですけど、これって80年代終盤のヤンキーが好んで使った言葉で、ナウなヤング(笑)、しかもさわやか系の男の子は言わないだろう、とか。全体的に男の子の言葉遣いに不自然さを感じました。
町口
僕も好きな話なんですよ。だけど実写にした場合も「NANA」とどうしても比較されてしまうだろうし、それだったら二次通過10本の中に選びたくない。

きれいで、嫌なところはなかったので、△にしたんですけど。プラトニックすぎて印象が強いとは言いきれないかな。でも劇的にしよう、しようって考える一次で読んだ人たち、つまんない事件とか自殺ばっかり書いてよこしている作品に比べると好感が持てました。
三村
でもお母さんの失踪理由のところとか20年くらい古い気がして。これでお母さんがなぜ失踪するのかわからない。
岡部
私もそこがひっかかっていました。

お母さんだったら絶対こんなことはしないと思うけど。母性愛が感じられない。
三村
残されていく子供の傷を考えたらできませんよね。それで苦しむ姿を見せたくないと考えているんだったらお母さんはただのナルシシストですよね。でも作者にはこのお母さんの態度がナルだという認識がないように見える。
岡部
選評にも書きましたように私もこの失踪の部分は納得がいかないんですよ、しかも死ぬまで何年か経っているというのが。
三村
手紙の一通でもよこせなかったのか。一体何の病気なの? って感じで。

それだったら男と家を出た方が説得力がある。
三村
病気の時点では新しくお母さんになる人の存在があったというわけでもないですよねえ。

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