第二次選考通過作品詳細

『飛ばないプロペラ』 月森 新

ある若手の高校教師が語る、病に冒された少女の愛と死の物語。主人公はあくまでも語り手の教師で、生徒とのやり取りを通じて人間的に成長するヒューマンドラマとなっている。
英語教師涌井は教師面をしない、自然体の教師だった。しかし荒廃した高校に配属になり、頭ごなしに生徒を威圧する生活指導担当教師に変貌する。その3年後、たまたま元同僚の結婚披露宴に行き、卒業生たちと再会する。かつて問題生徒と思っていた生徒たちの当時の事情を耳にし、さまざまな思い違いや行き違いを知り、真実を求めて卒業生を訪ね歩く。やがて病魔に冒された当時の問題少女、由樹の病院を訪ね、当時の事件や問題行動とは裏腹な実像を知ることになる。
荒廃しきった校舎や生徒の雰囲気と、壮大な茶園の緑の美しさが対照的な、とある高校の教師と生徒の青春の一頁。


三村
狭山の茶畑にプロペラが立っているのが好きなんですよ。
神田
映像的にそのシーンは映えるでしょうよね。
三村
それだけなんですけどね(笑)。構成的には、実は実はで明かされ過ぎちゃっていて、全然ドラマがない。
神田
私は冒頭でいきなり「俺は不良教師になると決めた」とあったけど、どこが不良なのかがさっぱりわからなかったんですけど。
三村
逆にこの先生が何でいい先生なのかもわかんないんですよね。
神田
そうそう。なのに一人で「不良だ」ってがんばっちゃっているところがちょっと空回りかな、と。
三村
先生抜きでこの高校生たちだけの話の方がよかったかもしれない。
町口
実際に高校教師なんですよね、この作者の人は。
神田
この人も自分の持ち物で勝負してるんですけど、別に先生を除いてもドラマは書けるじゃないですか。でもどうしても先生=自分を出してきたかったのかな、と。

日常、高校生に接している方だと思うんですけど、高校生の会話がすごい頑張って若ぶって書いているんだけど全然若くなくて、こんな高校生いないよって感じで。そういうのが見えちゃって、辛かったです。あと自分を美化しすぎなのかな、と。
町口
表現としてあばずれはないだろうって思いましたけどね。死語だから、それで引きました。
神田
男の子と女の子のストーリーとか、茶畑のシーンとかはよく書けていて、これが一次を通過してきたことには異存はないのですが、あえて二次で推す魅力があるかというと……。
町口
確かに積極的に推せないぞ、となってしまいます。
内藤
僕が唯一○なのでいわせていただきますが、これは先生の描き方がヒーローヒーローした描き方じゃなくて、他の職員室の先生に対しても目配りがあって、学園を舞台にした職員室ドラマなのかなって思ったんですよ。主人公を救う校長とか、若くてぼんやりしてるんだけど、実は生徒のことをちゃんとわかっている教師とか。
町口
いや、この主人公の先生の描き方も、教師たちの存在もうざいというか嫌味だと思いますよ。
神田
目配りといっても“描いてやっているんだ”みたいな。
横須賀
経歴なかったらどうなんでしょうね。
神田
本人が教師ってわからなかったら、すごいリアリティない話だって思うかもしれませんね(笑)。
久次
一次で選ばせていただいたんですけど、この小説の先生が先生の視点で描いているので、先生の成長記というかドキュメンタリーに見えてしまい、ラブストーリーとしては、一次通過作品全体の中では弱くなってしまうかもしれません。女子高生が糖尿病を黙っているくだりとか、稚拙な部分が少し気になったのも事実です。

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