第二次選考通過作品詳細

『声〜阿波の夢におちる〜』 水城 一花

たまきは同居していた男・神山のストーカー的な愛に疲れて、彼を殺し自らも命を絶った。残された家族は知人の配慮で徳島に居を移す。妹の蓮実は「たまきの妹か」と声をかけてきた地元の青年・巧栄と親しくなる。たまきは死ぬ前、阿波踊りを見たいとこの地を訪れ、そこで知り合った巧栄に悩みをうち明けていたというのだ。次々と明らかになっていくたまきの足跡、そして蓮実たちがこの地に導かれた理由……。そんななか蓮実は巧栄に好意を抱くようになる。巧栄は美しいたまきに惹かれていたことを認めつつ、蓮実のことを好きだと告げてくれた。そして今年もまた阿波踊りの日が近づいて……。


神田
この作品に魅力を感じたのは、ひとつひとつの言葉を丁寧に書いていること、自分の身近なことがらに美意識をもって書いていることがあります。細かい疑問点はたくさんあるんですよ、なぜこの巧栄という男は分割払いのように知っている事実を小出しにしてくるのか、とか、姉のたまきの死をめぐっても突っ込みどころはあるんですが。それから、阿波踊りの部分はもう少し書き足した方がいいと思いました。
横須賀
クライマックスは弱いですよね。でも映像喚起力という点では、読んでいると映像で見てみたくなると思いました。
町口
舞台が良いよね、阿波って四国ローカルなところが。
神田
今回、一次通過作品に四国方言を使った作品が二つあるんですよね、四国弁強し!(笑)。徳島弁にもかなりこだわって書いています。促音抜けるところとかまで、愛情を持って書いている。ただおとなしい作品ではありますよね。
横須賀
スタンダードすぎるところはありますよね。
町口
キャラの屈託がなさすぎ。言ってみれば屈託ある宇多田ヒカルと、それのない倉木麻衣の差みたいな。僕はキャラ読みをする場合、屈託がないとはまらないから。ただ、逆に今の子は、屈託があるとうざいと思うかもしれないし。そこら辺は読めない。
三村
でもこの男うざくない? いろいろ親切だし、ネタを小出しにしてくるし。
神田
知ってるんだったら、一回に言ってよ、みたいな(笑)。
三村
でも全部言ってくれたら最初で話は終わってしまうんですよね。
町口
最初に読んだとき、よしもとばななの作品っぽいって印象を受けたんですよ。これは、ある意味褒め言葉であり、ある意味貶し言葉であり。まあ感動のストーリーだと思うんですよ、阿波踊りもビジュアル的にいいと思うし。ただ、よしもとばななの作品に対する批判と同じなんだけど、いわゆる共同体の中で処理される単なるお話かなって、ちょっと醒めた目で見ちゃうんですよ。だから△にしたんですけど。
神田
でもいい話を読んだ、という読後感はありますね。今時キスもしないで終わる恋愛小説っていうのもさわやかでいいかな、と。
──諏訪さんは×ですね。
諏訪
読後感がさわやか、というのは確かにそうなんだけど、その前提の部分で納得いかないところがあるんですね。まず一緒に住んでいる男をストーカーといえるのか、とか。お姉さんは男の行為に悩んで男を殺し、自らも死を選ぶんだけど、こんなに愛情がある家族がいるのだったら、家族のいるところへ戻るんじゃないのかって思いますよね。そこのところが、小説としてどうしても見過ごせない欠陥な気がします。
彌永
四国の阿波踊りを舞台にした部分はよく書けていると思います。妹を思うために自らを犠牲にするというあたりとか、たまきの存在設定自体に疑問はあるんですけど、それを差し引いても、ヒロインの想いとか、祭りの本番に向かっていく人たちの熱気のうねりとかが、うまく出ている気がして○ですね。
岡部
私は作品中に、悲しさと笑顔、静かさと明るさとが同居しているところが切なくていいかなあと思って○にしました。

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