第二次選考通過作品詳細

『真夏の雪』 なりゆき わかこ

四国の女子高生工藤佳奈美の新しい家庭教師は、東大出身のミルク臭いでぶ、花岡守。彼が四国にやってきた目的は、ポスターで見つけた美少年、浅野亮に接近するためだった。佳奈美が亮の同級生であることを知った守は狂喜し、彼がただで家庭教師をするかわりに、佳奈美は亮とつきあうふりをして、その報告をすることになる。ほどなく佳奈美自身も親友の美枝に心をひかれていたことに気づく。守は佳奈美のかけがえのない親友となるが、佳奈美との関係を誤解された守は家庭教師をクビになり、交通事故に遭遇する。佳奈美は亮とキスをして、その感触を守の唇に伝えるも、守は一命を落とす。受験に失敗した佳奈美の耳に、守の声が響いてくる。「どこにいても一緒よ」。


──これも賛否両論分かれた作品ですね。
諏訪
僕が一次で選んだ作品は2本ともそうみたいで、それはそれでいいかなと思うんですけど。さて、さっきリアリズムがどうとかいったわりには、この小説は完全に漫画です(笑)。でも、小説世界としてはちゃんと成り立ってると思います。ちなみに作者の方は現役の漫画家でもあります。この小説は、設定が飛び抜けて変なんですけど、そこから最後まで引っ張っていって、それはないだろうというギリギリのところで泣かせる狙いが面白いなと思って選びました。
町口
これはセクシャルマイノリティの人が読んだり、映像化された場合に観たりして、どう思うかというのは気になる。同性愛者のキャラクターの描き方がステレオタイプな気がする。
神田
まあ、漫画ですからね、これ。私は漫画としては面白くみました。やはり恋と言えば乙女心でしょう!って感じで。「乙女心」が強調されていて、しかも昨今話題の”キモヲタブサメン”のブタ男くんがやっているというのが、ちょっとキャッチーなのかな、と。さらに言えば、うどんのポスターに惹かれるというトリヴィアルな設定もツボでした。よく考えられた作品ですが、ずっと地の語りも四国弁っていうのは小説として読んだ時にちょっとくどいかなあと。
久次
これ、クスって笑っちゃう部分がありますよね。太った男の人が死んでも、何かほのぼのと笑わせてくれるような。

私も○なんですけど、やはりレズものなど一次も含めてたくさん読んだ中で、同性愛系で自分が心から面白いと思えたり、ああ、こういうのもあるかもしれないって思ったのは少ない中、貴重な作品でした。読み進めていくうちにこのブタ君が可愛らしく思えてきて。ポスターに向かって胸キュンになったりするところは、自分もわからなくもない趣味があったりするし。変にベタじゃないところも、面白いのかもしれない。うどんがグルメ的にはちょっと前のブームな感じなんで、それはちょっと……ですけどね。
──×は、三村さん。
三村
うん、定型を茶化していると考えて笑えばいいのか、何なのか。正直言ってわかんなかったんですよね。ありきたりなのを当たり前と思って笑うべきかな、と。
諏訪
そんなにありきたりですか?
三村
ずらしてあるだけで、シチュエーション的には漫画的ありきたりかなと思って。乙女→ゲイのブタ男、アイドル→うどん屋の息子とずらしただけのような気がするんですけど。
諏訪
いや、そのゲイの男の身代わりになって恋するふりをしてもらう、っていうところがミソでしょ。
三村
そこを面白がらなくちゃいけなかったのか?
町口
そういう風に読むのもありかな。やっぱ面白い人には面白いんだろうねぇ。
神田
間接キスは交通事故にあった時点で読めちゃうんですけど、あえて読めちゃうところに行っちゃうというおかしさもありますね。
──横須賀さんも×ですね。
横須賀
コミックのノヴェライズという感じでノヴェルである必然性はないというところですかね。
町口
描写力とか表現力とかあると思います?
横須賀
僕はそれはちょっとないと思う。
神田
そこで方言に逃げちゃったかな、という気はした。地元べったり、讃岐のうどんという雰囲気は出るじゃないですか。
町口
なるほどね。

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