第二次選考通過作品詳細
『十九の春』 中川 陽介
沖縄の私立探偵・新垣ジョージは、ある事件で愛する女性を失って以来、酒に溺れる日々を送っていたが、なりゆきで40年ぶりにブラジルから帰国した男・天願孫良の初恋の女性探しという仕事を引き受ける。時を同じくして、何者かに追われる少女・知花柚を助け、彼女をかくまうことに。柚は宮古出身の歌手で、彼女の歌声は、絶望の淵にいたジョージの救いとなる。ジョージと柚の間にささやかな友情が生まれるが、柚は、ある「歌姫」とともにジョージの前から姿を消してしまう。柚と歌姫、そして天願の初恋の人・太田たえ。女たちの足跡を追いながら、ジョージはいつしか悲しみの日々を乗り越え、もう一度人生に光を見出そうと、新しい一歩を踏み出していく……。
町口
僕はこの作品を評価できない。
三村
ボリューム不足なんじゃないの。
町口
じゃなくて、これは単に脚本を書いて送っただけなんですよ。断じて小説ではない。そこからして却下なんですよ。僕は彼がもう一作送ってる作品を一次で担当して読んだんだけど、それも同じ感じの脚本だったんで。
三村
ドラマにするために書いている作品ではありますよね。
神田
この人の頭の中にはすでにひとつのワールドがあって、そのワンオブゼムなんでしょうね。
暁
もうプロとしてやりすぎていますよね。
彌永
映像作家で、作品は全部沖縄が舞台ですしね。
町口
彼の念頭にはこの賞は映画化権が付与されるから、その資金を元に自分の作品を撮るぞっていう、悪く言えばそういう“魂胆”みたいなものが見え隠れしている気がするんですよ。
横須賀
長いこと育ててきた作品世界で、思い入れは人一倍のようですけどね。
神田
別に、話としては悪くないし、よく考えられていると思うし、文章にも味があると思います。もっと脚本っぽい、せりふとト書きの羅列のような作品もたくさんあったし、そういうのと比べるのも何ですが、この作品は小説として完成させようとする意志は感じられたと思います。
諏訪
うん、僕も小説としてはちゃんと書けてると思いますよ。ただいかんせんこれラブストーリーじゃないよね。
彌永
そうですよね。ハードボイルド探偵のキャラは、よく出てると思うんですが。
三村
ブラジルからきた老人の初恋話がふくらむのかと思ったら、ちっともふくらまなくて、えっ!? て感じで。そこをラブストーリーにしてくれよ。
彌永
確かに読んだ時にちょっと営業的な要素が入ってるかなと思ったんです。作者の中で撮りたいもの、やりたいものがあって、そのために応募したのかも、という。でも私がいいと思ったのは、この事件そのものより、この前の事件で愛する人を失って、大きな心の傷を抱えていた男が、再生していくという見方で読んだ時に、最後に光が見えたというのがしっくり来たので。ラブストーリーとしては薄いんですけれど、好きな話だったな、ということで○にしました。
神田
彌永さんが書いていらしたハードボイルドに沖縄が似合うというのは非常にいい選評だな、と思いましたよ。そこら辺を上手くつかんでやってきた人なんだな、とか思いました。
三村
ドリームですよね、ほとんど。中年の夢小説みたいだなあ、と。
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