第二次選考通過作品詳細

『灰になる迄』 今迫 直弥

世界で初めての「吸血鬼」と彼女によって作られた「出来損ないの塊」の物語。そこは「人間」と「吸血鬼」と「出来損ない」がお互いを脅かしながら破滅に向っている世界。僕(=ヴァイス)はラボで彼女(=ミズ)と暮らす。僕はミズによって作られた「塊」。いろいろな投薬をされたり、インターネットで現在の間と吸血鬼の関係を学習させられたり、ヴァーチャルリアリティで実戦訓練を受けたりしている。やがて僕は彼女のことを心から愛するようになる。ミズも惹れる気持ちをうすうす自覚しているが、彼女には過去の足枷がありどうしてもその愛を認めることができない。やがてラボは襲撃を受け、戦いの中で「魔女事」の歴史、かつて作られたもうひとつの「人形」のことなど、封印された記憶が解き放たれる……。


彌永
この作品は、マッドサイエンティストっぽいヴァンパイアの語り方がどうかなと思う部分はあったけれど、ヴァンパイアもののアプローチとしてはちょっと面白かったと思いました。学問的に遺伝子のこととか、いろいろ書きたいことが出てくる人かなとも思いましたし。
町口
でもこれは「トリニティブラッド」なんかとは比べものにならないでしょう。
三村
比べられないですね。世界設定はそれほど綿密でもないし、壮大な話でもないですから。
町口
決定的にダメなのは、服装に関する描写がまったくないから、ビジュアライズできない。ヴァンパイアものというのはやはりゴシックカルチャーなんですよ。格好はいいけど、そいつは悪だぜみたいな。そこらへんが全然だめだったなあ。
神田
私はこの世界観の作り方は好きだったんですけど、確かにキャラ立ちは弱いかなあと。あえて選んで、エンタテインメント路線を描いたと思うんですよ、この作は。その割にはサービス精神が足りない。女性ヴァンパイアが戦う時のキメのポーズとかまで創っちゃってもいいと思うんですよ、シリーズ化できるくらいにャラ付けにサービスを考えるのは、必要かな、と。
町口
映画化するにしても、「インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア」とかは美男俳優に、「トリニティ・ブラッド」はアベル神父に萌えるじゃないですか。僕は全然これには萌えなかったなあ。
三村
途中研究室で話が進むでしょ、研究室ってちょっと密室っぽいですよね。そこでもっと耽美っぽくなってもいいんじゃないかと。
町口
そうそう、耽美が足りない。惜しいといえば惜しいなあ。

だからこれはヴァンパイアでなくて別のモンスターとして私は読みました。みなさんおっしゃったゴシック美みたいなのはないし、これはこういうモンスターなんだなと。文体がぶわっと盛り上がるところとかは部分的に面白く読みましたけど。ただ少し電撃文庫的というか。
町口
それにしては萌えがないな。
神田
足りないのはサービス精神ですね、だからもっとドライな感じにして、ヴァンパイアものというよりはもうちょっと世紀末的なものにしたほうが面白いものができるんじゃないかな、と。世紀末研究室ものというか。ポテンシャルはあるほうだと思っています。
町口
ヴァンパイアものって、吸血鬼の他者性とか、奥が深いからね。
横須賀
シンボルとしての要素があるモチーフですからね、ヴァンパイア自体は。
神田
冒頭は上手かったなあ、印象的でした。読んでいて具合が悪くなるかと思ったんですよ、夢にまで出てきたし。そういう意味で文章の強さはあると思うので、違う方向性もさぐって欲しいなあと。

うん、あの冒頭は不気味でインパクト大ですね。

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