第二次選考通過作品詳細

『たすけてください』 町井 登志夫

大学卒業間近のコンパで水谷健志は、二人の女性と知り合った。ひとりは美人で、快活で、その場をもりあげようと気を配る優美。もう一人は地味で内気な香鈴。対照的だが仲のよい親友同士だった。健志はどこか凛とした部分のある香鈴に心が動きつきあうようになり、香鈴を通し優美とも友情を結ぶ。
ところがある日、デートの場所に香鈴は現れず、忽然と姿を消した。ごく普通に自宅を出、約束の場所に向かう道で香鈴になにが起きたのか──。
香鈴の行方がわからないまま年月がながれ、やがて優美と健志の友情が愛情に変わったころ、警察から香鈴が発見されたという連絡が入った。彼女は一年半もの間、ひきこもりの男に監禁されていたのだ。痛々しい香鈴を見つめ、自分を責めつづける健志と優美。二人の関係を察知する香鈴。香鈴も優美も相手のことを思いやり、一度は姿を消そうとする。香鈴をひきとめたのは健志の、そして優美をひきとめたのは香鈴の、「たすけてください」という言葉だった。


神田
この作品がこんなに人気がないとは思わなかったです。衝撃の度合いとか、わかりやすいんじゃないかな、一般受けしそうだなと思って、特に好きじゃなかったけど○にしたんですけど。女の子が監禁されるシーンで、確かに一年半ずっと監禁されているところを映画にされるとかなりヘヴィだと思うんですけど、例えばそれを女の子の視点に固定したら映像的に面白いかも、などと思いつつ。上手い話だと思って読みました。
横須賀
僕はこの作者が少し力を抜いて書いているような気がして。もうちょっと実力は上でしょう。
三村
えっ、そうですか。こんな感じじゃないかな。
横須賀
そうなんですか。ちょっと本気じゃなかった気がした。
久次
私は、監禁されているところとそうじゃないシーンの筆の乗りが違うのが気になりました。

監禁のところはすごくリアリスティックで気持ち悪いんですよね。
久次
監禁はすごく生き生き書けていますが全体のエネルギーに波があって不安定に見えてしまったんですよね。面白いとは思ったんですが。
三村
町井登志夫じゃなかったらどうしたかなあ、と思って、でも○はつけられなかった。もともとラブストーリー向きの作家ではまったくないんですよね。だから逆によく書けているなと思うんですけど。
町口
僕はこの作家にも作品にも特に思い入れはないです。
三村
筆は立つ人なんですね。だから選に残っちゃう。監禁の所なんか彼の真骨頂ですよ。

あそこはすごく気持ち悪くて、だからこそ出てきて回復までがちょっと弱い。
三村
そうそう、あんなことされたら簡単に立ち直れないですよ。

一生引きずりますね。
諏訪
ところで、シノプシスはもっとちゃんと書いて欲しいですね。
三村
これはひどいですよね。ちょっとなめているだろうって。
神田
まるで宅配便の送り状のような気の抜けた文章でしたね(笑)。私は本文を読み終わってから、作者の意図を知りたいな、と興味を引かれたときにレジュメを見る主義なのでよかったんですが、最初に読んでたらちょっと作品への評価が変わったかも。

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