第二次選考通過作品詳細

『カフーを待ちわびて』 原田 マハ

台は沖縄の離島・与那喜島。雑貨商を営みながら淡々と暮らしている友寄明青(35)は、ある日、「幸」と名乗る女性から思いがけない手紙を受け取る。明青が旅先の神社に、ほんの遊び心で残した絵馬の言葉、「嫁に来ないか」を見て、結婚したいというのだ。そして3週間後、幸が現れ、明青の家に住み込んでしまう。戸惑いながらも、溌溂とした幸に思いをつのらせる明青。折しも島では、リゾート開発計画が持ち上がっていた。明青は反対する少数派のひとりだったが、幸が一緒なら新しい生活に飛び込んでいけると思い、一大決心をする。しかし幸には、明青に打ち明けていない秘密があった……。


──これは男性陣と女性陣の評価が微妙に違うんですよね。
三村
これは安全パイの小説ですよね。文章も構成も上手で、安心して読めるかわりに、まったく意外なこともなく。わくわく、はらはらするタイプではないでしょう。

でも、ラブストーリーって、こういうあったかい、読んだ後にほっこりするだけ、というのもありだと思うので、私は好きだったんですけど。あと、一次で読んだ分も含めて、沖縄の舞台がすごく多かったんですよ。今、沖縄移住がブームと言われていてその影響なんだろうな、と思ったんですが、この作品は沖縄を無理に使ってなくて自然に描かれているのが、よかったですね。
町口
沖縄の問題というのは、ポストコロニアルの問題なんですね。要するに日本が明治初頭の琉球処分で沖縄を併合してきた今までの歴史的な経緯があるわけです。太平洋戦争中は沖縄戦で住民の3分の1が死んでしまっている。そういうことを考えると僕は安易に沖縄移住がブームだというのに抵抗感がある。それで△にしたというのがひとつ。ふたつめは、普通の小説の文法に則りすぎていて、うますぎるという意味で逆につまらない。僕はどこか傷があった方が好きなんですよ、小説って。そこらへんが△の理由。○にしようか最後まで迷ったんですけどね。でも二次通過とする分には問題ないと思います。
横須賀
まったく同じ意見です。琉球・沖縄の扱い方がちょっと気になりました。単なるエキゾチシズムとしての扱いではないんですが。同じく通す分には問題ないと思います、というかみんな○を付けるだろうなと思ったからあえて、という部分もありましたから。
町口
沖縄の伝統的な文化や風俗などはよく理解されていますよね。そこは認めます。細部にまできちんと取材がなされている。
三村
減点法で採点していくと、間違いなくこれがトップになるでしょう。減点するところがほとんどない、そこがつまらないと町口さんはおっしゃってるんですよね。減点する部分が個性につながるとすれば、そういったこの人ならではの個性が、わりと一般的に受け入れやすいところにしかないという。
横須賀
この人が今後何を題材に選んでいくかというのには興味を引かれますが。
町口
小説の文法をきちんと知っている人だから、心配はないでしょう。将来的には大きな賞を取る人だと思いますけど。
神田
将来的にはって、この賞であってもいいじゃないですか! 十分大きな賞なんですから(笑)。
(一同笑)
彌永
私は、一次の講評でも書いたんですけれど、読み始めたとたん、すうっと物語のなかに入っていけた、それがまず心地よかったんです。「応募作」を読んでいるという意識が他の作品ほどなくて、素直に作品のなかに入ってものを見られた。蝶のクリップみたいな小道具の使い方も上手だし、物語の運びを見ても、とても巧い人だと思いますが、それ以上に、「私を読んで!」という、読み手を引っぱり込んでいく力が、何よりこの人の魅力なんじゃないかなと思ってます。

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