第一次選考通過作品詳細

『夜明けのサイクリング』 のずみ 大悟

自転車でアジアへの冒険旅行の途中、バンコクで「俺」は親友の佐月と再会した。そこで日本に残してきた恋人と佐月が関係を持ったことを知る。旅を打ち切って帰国した俺は、彼女と和解するが、それ以来、一度も佐月は日本に帰ってこない。
それから四年。佐月の不在にしびれをきらした俺は、決着をつけるために再び自転車の旅に出た。佐月が「第二の故郷」と呼ぶインドで別れや出会いを繰り返しながら、一歩一歩、佐月へと近づいていく。最終目的地はアンナプルナ。そこは佐月が四年前に遭難し死んだ山だった。


選評:三村 美衣

かつて親友と恋人の裏切りにあった青年が、自分の気持ちに決着をつけるために自転車でのインド旅行に出かける。かっこつけたり、強がったり、無関心を装ったり、憎んだりすることで、四年間、恋人とも親友とも、そして自分自身とも向き合わずに逃げつづけてきた青年が、インドでの旅を通して少しだけ成長する。その旅の様子を描いたロードノベル。
タクシーの運転手にぼられ、警察官にだまされ、爆弾テロに遭遇し……、と到着早々事件がつぎつぎに起こり、読者を暑くて無軌道な世界へとひきこむ。外国人旅行者から1ルピーでもまきあげようとするインド人のたくましさや、インドに憧れ、インドに呼ばれるように流れ着いた外国(主に日本の)旅行者たちの生態がつづられている。インドでの経験とはいっても、この旅行者たちの間で話が進むところは評価の分かれる部分だが、インド人と交わったり、インドの少女と恋におちたりといった安っぽいエキゾチズムよりもむしろ、外国人の限界が見えてリアルで面白いと思った。

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