第一次選考通過作品詳細

『夢のたまくら』 青柳 順子

乗馬や武術が得意な男まさりの姫・天海。13歳で輿入れを迎えるが、嫁入り行列が盗賊に襲撃され、母の形見の櫛を奪われる。櫛を取り返すべく勇敢にも自ら馬にまたがり、盗賊たちの後を追って根城の洞窟へたどり着く天海。盗賊の頭・仁明はそのまっすぐな心意気と美しさに心惹かれつつも、乱暴に彼女の貞操を奪ってしまう。天海は驚き嘆くが、気の進まない輿入れをしていても同じことと潔く現実を受け入れ、そのまま盗賊たちと共に暮らすことに。気のいい盗賊や遊女たちの親切を受けて天海も心を開き、やがて美しく成長。懐の深い仁明とはいつしか互いに惹かれ合う仲となり、ついに想いを遂げる。母の形見の櫛は、天海にとって大切な仁明と出会うための絆になったのだ。ところがその櫛に、実はある秘密が隠されていた……。


選評:暁 みちる

時代小説でありながら、堅苦しさやとっつきにくさがまったくない、エンターテインメント性あふれるファンタスティックかつ痛快ラブ・ストーリーとして楽しく読めた。時代や地域は限定せず、いわゆる歴史上の人物なども登場しないのに、上流階級の武家や盗賊など多彩なキャラクターを登場させて、日本情緒あふれる世界観を矛盾なく成立させている手腕は見事。主人公の二人が出会うきっかけとなる「櫛」が後半の大きなポイントをにぎる点、冒頭とラストの決め台詞がごく自然にリンクしている点など、構成もしっかり組み立てられている。少女から大人の女へと成長する天海の美しさ、男気とリーダーシップにあふれる仁明の戦闘姿、洞窟での酒宴の様子など、ビジュアルイメージを鮮やかに想起させる表現力を全編にわたって感じた。粗野だが心根は優しい遊女や盗賊たちなど、魅力的な脇役陣の生き様にも興味がわき、できればシリーズものとして読んでみたいとさえ思う。必要以上に言葉を飾り立てず小気味よいテンポを刻む文章は、ある意味、天海と同じ「男まさり」で凛とした強さを秘めた女性なのだろうと、筆者像を想像させた。

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