第一次選考通過作品詳細
『不器用な詩人』 星月 むく
主人公のサラ(22)は自分の書く詩を渋谷の路上で売っている。7歳の時に大好きな母が家を出て行ってしまったことと、16歳の時、サラが「大好き、今すぐ会いたい」と告げた直後に恋人が交通事故で亡くなってしまったことが原因で、サラは自分の思いを口にできない。サラの詩に出てくる「きみ」はその恋人のことだった。そんなサラに「きみのきみになりたい」と思いをぶつけてくるバンドのボーカルの男・亜樹。サラも亜樹に惹かれるがどうしても好きと言えない。サラの幼馴染で、茅ヶ崎で雑貨屋を経営する優子はサラから亜樹を取ろうとする。2人の前から姿を消したサラは、亜樹のことを綴った詩を書きはじめ、メジャーデビューを果たした亜樹はサラへの思いを歌うのだった。
選評:岡部 優子
過去に起こったことが原因で心に傷を抱えていて、他人との間に壁を作ってしまって、人と関わることが怖くて、好きなのに自分の気持ちを外に出せない、主人公サラのキャラクター設定に時代性と魅力を感じた。逆に、「好きだ」とストレートに思いをぶつけてくる亜樹も、ただの明るい軽い男ではなく、過去に思いを告げることができなかったという心の傷を抱えていて焦っているのだというように設定されているのもいいと思った。
ただ、欲を言えば、サラが、あるいは亜樹がどんな行動をするのか、という点で、もう一つ魅力がほしい。ストーリー展開という点ではありがちな面もあると思う。
元サーファーだけど今は海から逃げている、という雑貨屋の1階の喫茶店のマスターなどは、ドラマにしやすいキャラクターかもしれない。
自分が癌だとわかったから離婚して家を出た、というサラの母親の気持ちは、もう少し説得力のあるように書いてほしかった。(サラが7歳の時に出て行って12歳の時に亡くなったということだが、出て行ってすぐ亡くなったというならまだ理解しやすいかもしれない)
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