第一次選考通過作品詳細

『星夜の贈り物』 小林 ゆりす

保育士の江里子と、大学助教授の創造の間に生まれた夏織が、七夕祭の夜、不慮の事故で亡くなった。形見の七夕の短冊(考古学)だけが見つからない。その後、夫婦は離婚し、各々新しい恋のようなものをする。2人は事故に遭いそうになるが、その度に夏織が現れ救う。短冊も夏織の手引きで発見され、最後は「メリーゴーランドで」との夏織の言葉を受け、二人は再会し共に生きることを決める。


選評:町口 哲生

SFやファンタジー要素が違和感なく挿入されたラブストーリー。何より文章力があり、次はどうするのか楽しみながら読めた。また最初に江里子が指輪をはずし創造が預かるシーンから始まり、最後にその指輪をはめるとか、七夕の1年後に織姫と彦星のごとく再会するなど、伏線やオチに細心の注意を払い、構成がうまく全体的によくまとまっている。
主人公の家族3人もそれぞれ魅力的であるが、元夫婦の新しい恋の相手にあまり魅力が感じられない点と、もう1人キーになるキャラクターが居れば、より深いラブストーリーになったと思う。会話・セリフ回しはとてもスムーズで、気持ちがよく表現されているけれど、若干手直しした方がいいところもあった。描写の美しさは、何と言っても七夕祭での色彩感覚やメリーゴーラウンドの光の明滅がいいし、映像を喚起する点でいえば限りなく満点に近い。
以上の点では難点らしい難点は見当たらない。とはいえよくあるラブストーリーといえばいえなくもないし、新しい小説だなと感心はしなかった。またディティールの難点をいうと、作者は考古学の知識や大学のシステムに詳しくないように思う。「酒壷」の論文など聴いたことがないし、大学内の助教授と助手の恋愛関係は「セクハラ」の類でご法度が前提となっている。
最後に付記したい点は、作者のポテンシャルだ。まず「小説が好きで好きでたまらない。小説家になるのが夢だ」という気持ちが感じられること。次いでその気持ちが決して空回りすることなく、うまく文章が書けていること。もしチャンスがあったら能力をまだまだ発揮できる逸材だと思う。

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