第一次選考通過作品詳細

『十九の春』 中川 陽介

沖縄の私立探偵・新垣ジョージは、ある事件で愛する女性を失って以来、酒に溺れる日々を送っていたが、なりゆきで40年ぶりにブラジルから帰国した男・天願孫良の初恋の女性探しという仕事を引き受ける。時を同じくして、何者かに追われる少女・知花柚を助け、彼女をかくまうことに。柚は宮古出身の歌手で、彼女の歌声は、絶望の淵にいたジョージの救いとなる。ジョージと柚の間にささやかな友情が生まれるが、柚は、ある「歌姫」とともにジョージの前から姿を消してしまう。柚と歌姫、そして天願の初恋の人・太田たえ。女たちの足跡を追いながら、ジョージはいつしか悲しみの日々を乗り越え、もう一度人生に光を見出そうと、新しい一歩を踏み出していく……。


選評:彌永 由美

オーソドックスな、古きよき時代のハードボイルド小説を彷彿とさせる。そうした舞台に、沖縄がいかに合っているか、驚かされる。これは決して東京では出せない匂いというか、感触というか、色調というか……。ここ沖縄だからこそ成り立つ物語、なのかもしれない。
多くを語らずして、浮かび上がってくるジョージの深い傷。その描かれ方がいい。ジョージをとりまく人たちもまた、いい。たとえば、寡黙だけれど激しさを内に秘めている青年・桃原繁。同じ女性を愛し、失ったというその事実がジョージと繁をつないでいるのだけれど、ふたりの淡々としたやりとりを通し、私たちは知る。彼らにとって失ったものがどれほど大きかったのかを。そして、宮古の歌姫。ラストを光で飾る彼女の存在は、やはり沖縄でこそのものだ。
本作の書き手・中川陽介氏は映画監督(脚本も執筆)。映画『真昼ノ星空』が、この10月より開催の東京国際映画祭にて上映中という。映画を拝見していないので何とも言えないのだけれど、もしかしてもしかして、本作ともリンクしていたりする? だって由起子という名前は……。
それはともかくとして、この作品は、沖縄という街の影も光も、猥雑さも神々しさも、そしてそんな沖縄だからこそ際立つ愛の物語も、読み手によく伝えていると思う。

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