第一次選考通過作品詳細

『灰になる迄』 今迫 直弥

世界で初めての「吸血鬼」と彼女によって作られた「出来損ないの塊」の物語。そこは「人間」と「吸血鬼」と「出来損ない」がお互いを脅かしながら破滅に向かっている世界。僕(=ヴァイス)はラボで彼女(=ミズ)と暮らす。僕はミズによって作られた「塊」。いろいろな投薬をされたり、インターネットで現在の人間と吸血鬼の関係を学習させられたり、ヴァーチャルリアリティで実戦訓練を受けたりしている。やがて僕は彼女のことを心から愛するようになる。ミズも惹かれる気持ちをうすうす自覚しているが、彼女には過去の足枷がありどうしてもその愛を認めることができない。やがてラボは襲撃を受け、戦いの中で「魔女事件」の歴史、かつて作られたもうひとつの「人形」のことなど、封印された記憶が解き放たれる……。


選評:神田 法子

冒頭はかなりグロテスク(人体が灰になって朽ちていく描写)で、世界の終わりを間近に控えた舞台を暗示する。多くの謎を秘めながら語られ始めた物語は、途中で思わぬ事実にぶつかりながら、どんどん世界観を深めていく。そのストーリーテリングには、息をのむような緊張感があり、作者の構成力の高さをうかがわせる。美人ヴァンパイヤのヒロイン像は、これまでにもあったが、それにマッドサイエンティスト的な研究者の側面がプラスされ、罪と愛、闘いと攻防がひしめきあう一大エンタテインメントとなっている。作者は東京大学大学院農学生命科学研究科の現役大学院生。研究室から生まれた狂気(凶器)のイマジネーションは、今後どこへ行き着くのだろう。終盤、リフレインされる愛のフレーズ「灰になる迄」は、退廃的な響きを帯びつつも、美しく切ない。

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