第一次選考通過作品詳細

『フォビア』 相原 光

フォビア……この恋は呪われている!
若きお話売りのチェイスと、美しい娘・アッシュ。出会ってすぐに恋に落ちたふたりは、ふたりだけの楽園で、お互いだけを求めて1年を過ごすが、あるときアッシュが原因不明の熱病に倒れる。占い師は告げた。これは恋の呪いだと。そして、アッシュは7日後に死ぬ……と。しかしその予言は、チェイスがかつて人々に語って聞かせた「物語」そのものだった!
時は近未来。長く激しい戦争を経て、世界の成り立ちは変わり、すべての書物が封印された。そして「物語」もまた本の体裁をとらず、「お話売り」の資格を持つ者だけが公に語り、伝えていくものとなっていた。そんな世界で、チェイスは奔走する。アッシュの命を救うため。ふたりの恋の呪いを解くため……。期限は7日だ!


選評:彌永 由美

書き手の熱意がほとばしる、熱い作品である。構成や設定など、面白いなと思う反面、粗さも見られるけれども、チェイスが突っ走っていくその勢い(=書き手の勢い?)に乗っかって、快く読んでいける。難を言えば、恋するふたりのラブラブぶりに、読者が入り込む隙間がないこと。この物語のスタート時の必須条件として、このふたりが激しく恋に落ちたことがあるわけで、それがすべての始まりなんだけれど、チェイスの、あまりの「好きなんだ!」ぶりと、その独白の数々に、読み手はちょっとあてられちゃうかも?(しかしこの「恋は盲目」状態が、物語の伏線になっていたりするから……これはこれでよいのかな?)
そうしたことを差し引いても、チェイスの旅そのもの、そこで出会う連中は魅力的で、結局どうなるのよこのふたり! と、最後まで読ませる力は評価すべき。ジェットコースターとまではいかないけれど、荒っぽいドライバーとともに山また山を乗り越える、ロードムービーふうな味わいだ。

一覧に戻る