第一次選考通過作品詳細

『ビルド・ア・ラヴ・ネスト』 栗原 彩乃

少し変わり者の周二と、父親から虐待を受けている1つ年下のコウとの出会い。舞台は南の島の高校から東京へ。そしてコウの父親の暴力から逃避行の末に2人は……。聖書のノアの箱舟をモチーフにした珠玉のラブストーリー。


選評:町口 哲生

生まれてきたことの存在意義というテーマと、ラブストーリーとをうまくブレンドさせた秀作。最初は、「キミとボク」が世界の中心に存在するという「セカイ」系的な設定を背景とし、『涼風』のような学園ラブストーリーものと思いきや、読み進むにしたがって、友人や家族との関係や、ルールに従わざるを得ない社会の仕組みまで描き出しており、ストーリーテラーとしての才能を感じた。また主人公の2人、すなわち読書家で誠実な周二と、父親からDVを受け「愛される」ことを知らないコウともどもとても共感できるキャラクターである。それだけでなく周二の友人である海人、相談役であるカンナ先輩、ストーカー行為に走った深雪、学習塾を経営している両親などなど、脇キャラもそれぞれいい味を出している。
会話やセリフ回しもスムーズで、2人の気持ちをきちんと読者に伝えている。「シャンパンの泡の中の妖精」「風が教えてくれる」などのキャッチーなセリフや、コウの名前の由来が「幸福の幸」であることが分かり、そこから物語が新たに展開するなどの仕掛けも好感が持てた。また、とかくありがちな携帯メールではなく、古典的な手紙によるコミュニケーションというのが、今の時代、逆に新鮮に感じた。そしてブーゲンビリアが咲く校庭や、がじゅまるの森など映像を喚起する上での鍵となる場所もあるし、長編ながら最後まで読ませる文章力もある。
ただ、聖書のノアの箱舟の話が、日本人一般に認知されているのかどうかが危惧される点、2人で過ごしたマンションが楽園であるとした点、クライマックスがあまりにありがちである点がマイナスのような気がする。とはいえ、2人が出会い恋をした理由には説得力があるし、逃亡先のホテルでのラブシーンで「ココニイルヨ。」という切実なセリフ、最後にコウから渡された手紙とそれに対する返信などなど、感動できるところが多々ある。もう少し推敲すべき箇所が散見するものの、総合的にいえば評価できる作品である。

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