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『私の、欲しい、暮らし 』 杉山 未来
二人の女性のそれぞれの物語が交互に語られる。
第一の物語は、森の奥で夫と二人だけの、閉ざされてはいるけれども満ち足りた暮らしをしていた女の静かな日常から語り始められる。女は夫の入院をきっかけ に町の活気や刺激に目覚め、病院で知りあった青年と駆け落ちし都会で暮らすようになる。やがて青年とも別れ、別の街で新たな恋人の腕に飛び込む。内から外 への物語。
第二の物語は、自分の浮気が原因でそれまでの恋人と別れたサキが傷心旅行に出かけた外国でアバンチュールを楽しむところから始まる。帰国したサキは、職場 の合コンで知りあった佐々木啓太と新たな恋に落ち、結婚。専業主婦となり、子供を産み、やがて夫の失職をきっかけに一家で都会を離れて田舎暮らしを始め る。外から内への物語。
逆方向にすれ違う二つの物語の軌跡が楕円を形づくる。
選評
自分の文体をもった、たいへん読みごたえのある完成度の高い作品。
導入部分では、静謐で寓話的なタッチで描かれる森の暮らしと、東南アジアの観光地とおぼしき街の活況のコントラストが見事に描き分けられていて、作者の高 い表現力を見せつけてくれる。二つの独立したストーリーを同時進行で読ませるという読者がとまどいがちな試みが成功しているのも、この表現力の裏打ちがあ るためだろう。
構成上も、二つのストーリーを交互に語るバランスのよさといい、冒頭とラストに幻想的なイメージを置くことで二つの物語を接続させる仕掛けといい、物語の中盤でサキと啓太が観る映画に森の暮らしを連想させるような場面を忍び込ませてある点といい、巧みに構築されている。