第一次選考通過作品詳細

『ウォー・クライ』 藤崎 真生

自分の通う学校の数学教師・高木とつきあっている高校二年生のリカを語り手に、物静かな同級生・仮谷、BLコミックに夢中の真希、の三人を中心に物語は語られる。仮谷は携帯電話に似せたスタンガンを手放せず、真希は処女なのに妊娠を恐れてピルを手放せない。リカもまた高木と気持ちがすれ違い始めている。
それぞれに不安を抱えた三人の気持ちを代弁するかのように真希は言う。「あのね、空の上に、すごい大きな神様がいてね。毎日、手からいっぱい針をまいて、地上に降らすの。その針に刺さった人間は不幸になるの。それで、運が悪いと死んじゃうの」。あどけない口調で語られる救いようのない話が、この後に続く事件を暗示する。
タイトルの「ウォー・クライ」は、ニュージーランドの先住民マオリ族が伝える呪術的舞踊ハカとその際に歌われる歌の英語名。戦勝祈願の踊りとされ、ニュージーランドのラグビーチームが試合前に踊ることで知られている。有吉との初体験を予感して、不安でいっぱいの真希に、リカは自分の初体験の相手が教えてくれたウォー・クライの歌詞を書いた紙をお守りがわりに与えたのだった。
仮谷に片想いした女生徒・柴田が携帯電話の番号を知ろうとしてスタンガンに感電、騒ぎになって仮谷は学校で孤立する。初めて生身の男の子・有吉に恋をした真希は初体験の朝、自動車事故に巻き込まれて死ぬ。リカは仮谷と有吉を連れて、真希の墓参りに出かけ、戦いの歌ウォー・クライを歌い「気まぐれな神様」に宣戦布告する。

選評

主人公たちの行動の一コマ一コマが淡々と描かれるが、「死はいつも、そこにあるリアルな希望」と考えるリカの冷めた視点を通しているので、文章は中だるみせず、最後までほどよい緊張感を持続している。ストーリーだけ抜き出すとセンチメンタルな青春ドラマのようだが、余計な感情移入をそぎ落としたシャープな語り口のお陰で、漠然とした不安に対峙する主人公たちの行動が清々しく見える。会話にもムダがなく小気味よい。有吉とつきあって「現実もいいなぁって思うようになった」と言う真希が無惨な死を遂げるエピソードも、ややもすれば湿っぽくなりがちな話なのに、むしろ運命の理不尽さへの澄んだ怒りが際立つ。
登場人物のキャラクターが主人公たちはもちろん、高木、柴田、有吉ら脇役たちも含め、簡潔な表現ながらもくっきり描かれていて、ブレがない。さらにピル、スタンガン、ウォー・クライといった小道具の使い方も上手い。お守り的な存在が主人公たちの不安に輪郭を与えている。
何かはわからないけれども、何かに耐え、密かに闘っている思春期後期の凛々しい少女と少年たちのドラマは青春小説の定番でもあるが、本作はそれに正面から挑んで成功している。

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