- 日本ラブストーリー大賞トップページ
- >過去の受賞作と講評
- >第4回大賞
- >第一次次選考結果
- >第一次選考通過作品詳細
『ニューヨーク・ステイト・オブ・マインド 』 高堂 学
広告会社に勤める僕がボスに紹介されて通う西五番街の居心地のいいバー・ラファロは、元一流写真家であるマスターが切り盛りしている。秋雨の降る閉店間際に現れた少女ホリーはラファロに住み着いた。ニューヨークで活躍中の写真家ナオミが交通事故で入院し、元師匠のマスターに救いを求めてきた。長年想い合う二人だが、二十年前に事故で妻子を亡くしているマスターは結婚に踏み切れないでいる。妻子の魂がナオミと自分に繋がっていると感じるホリーは二人の結婚を望む。ナオミを迎えにNYへ旅立ったマスターの留守を預かった「僕」とホリーは、幾つかの行き違いの末に結ばれる。僕とホリーの計画は成功して、マスターにとっての「セントラルパーク」でマスターとナオミは挙式をする。写真家に復帰したマスターからラファロを託された僕は、突然イタリアにデザイン修業に出たホリーを小説修業をしながら待つ。
選評
ホリーというヒロインの名から明らかな通り、この作品にはカポーティの小説『ティファニーで朝食を』とその映画から選ばれたさまざまなイメージが重ねられている。
タイトルと注意深く粋に描かれた冒頭のシーンから、すっかりニューヨークでの物語だと錯覚して読んで(「錯覚」はこの作品のモチーフの一つでもある)、それが実は東京・銀座を舞台にした物語だということが分かったときには「やられた」と気持ちのいい驚きを味わった。
堀部という苗字ゆえにつけられたあだ名がイヤだったから美大入学を機に自分から「ホリー」と名乗ったというハタチのヒロインの元のあだ名が「ヤスベエ」(赤穂浪士)。コンビニのおにぎりを頬張りながら銀座のティファニーの前を通りかかる主人公がヒロインと交わす会話の中に「ティファニーで就職を?」。不器用な駄洒落と、ニューヨークもどきの街でカポーティの小説やヘプバーンの映画のように暮らす若いカップルの描写のギャップが微笑ましい。家族を失ったマスターとナオミが、マスターの「セントラルパーク」で主人公とヒロインに見守られて結ばれる情景は美しく感動的。
イタリアに旅だってしまったホリーを、バーの切り回しもしつつ小説家志望の僕が待つ、という結末も凝っている。