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『難破船は遡上を始める 』 狩野 なおき
失恋したばかりのJJはふとしたことから出会ったTMから、ミサとつき合うことを薦められる。ミサとのちぐはぐな交際はなかなか進展しない。JJの会社にあらわれた謎の中年男とTMの間には何らかの暗闘があるらしい。ミサに惹かれ始めていることに気がついたJJは彼女と真剣に向き合おうと考えるようになるが……。
選評
何が起こっているのか、何が起こらなかったのか、何度読んでもすべてがつかみきれない作品であるが、読むたびに何かを発見して楽しい物語でもある。
延々と僕(JJ)は別れた恋人のエリ、TMにけしかけられて心惹かれるミサ、不可解な行動をとる中年男、彼と水面下のやりとりを繰り広げているらしいTM、店のフィリピン娘のアリスやマリアやベスとただ会話を交わし、思考を繰り広げる。その中で展開される言葉が詩情をもっていて美しい。しかし、単に美しいイメージを喚起する言葉を書き連ねた小説かと甘くみると、そこにある「組織」が無気味な影を落としているのが見える。「組織」をめぐってのTMと中年男の暗闘と、そこに否応なく巻込まれるJJ。一見穏やかなやりとりに見える物憂げな会話が、思いもかけないしんとした緊張感を生み出している。