第一次選考通過作品詳細

『オキナワ・ダウンタウン・ブギウギ 』 荻野 美和

崩壊間際の東京での家庭生活から逃れるために、そして16歳のときに生き別れとなった父・比嘉孝三を探すために故郷の沖縄に渡った比嘉努は、幼なじみである山原の協力を得て、父の捜索をはじめた。手がかりとなるのは若き日の父の写真一枚にすぎなかったが、捜索を続ける中、努は、占領期の沖縄の空気と父の青春の名残が残る金武にこそ父はいるのではないか、という思いに至る。確証があるわけではなかったが、金武の新開地に足を踏み入れた努は、そこで米兵向けのショーパブ「ブラックマリア」のトップコールガールのマーサと、その付き人の少女・リーノに出会うことになる。
マーサやリーノとの関係を築きながら、金武の新開地を中心に父捜しを継続する努は、ある日、ひょんなことから父に邂逅する。しかし、父は努と会うことを避け、過去については口を閉ざすのだった。
 努が父と再会を果たす一方で、金武の新開地はそれまでの平衡を失い、暗い影が覆い出していた。努に恋をするがゆえに大人になることを急ぐリーノ、努が登場したことによって生活をかき回される結果となり平静を失うマーサ、マーサの同僚のコールガールで山原の愛人であるエリー、人身売買の末に「ブラックマリア」に売られてきたコールガール・チトセと、その男である金城、そして黙して語らない父・孝三。新開地の平安が破られていく中、努は山原を経由して、生き別れた後の父の生き様を知ることになる……。

選評

端的な言葉でコザの空気や金武の雰囲気を見事に捉え、書き手の思い描いた情景を読み手に伝達させている。そこに冗長な表現は一切ない。このような表現が可能なのは、書き手が沖縄のこと愛し、深く理解しているからなのだろう。金武の新開地には行ったことがないが、この作品は、その空気や匂いといったものを見事に伝えている。
登場人物にしても、余計な登場人物は一人もおらず、すべてが物語に関わり、作品世界に深みを与える役割を担っている。マーサにしてもリーノにしても努にしても、作品世界から浮いてしまっている人物は誰もいない。誰もが作品世界に溶け込み、その一部分として生きているのだ。そして、登場人物と作品世界とがこうしてフィットするのも、やはり書き手が金武などに対してとても深い理解を持っているからなのではないか、と思う。
この作品自体、作者自身の言葉を使わせてもらえば「オキナワへのラブレター」であり、作中のあらゆる表現は沖縄に対する作者の愛によって裏打ちされている。もちろん作中でもラブストーリーは展開されるわけだが、作品そのものが対象に対するストレートな愛によって成立しているのだ。その意味でも、「オキナワ・ダウンタウン・ブギウギ」は通過作としてふさわしい作品であると言えるだろう。

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