第一次選考通過作品詳細

『かたびらの調べ』 中山 閑賀

「灰色の世界」に住むリミとパートナーのアミ。彼女達が3年に一度の「生壁こし」の日を迎えるまでに、幾度も新しい体を得て生まれ変わる「椰々子」とは何か、大人とは何か、愛とは何かについて迷いながら成長していく過程を描いたファンタジー。
リミは大人を軽蔑しながら「生壁こし」を数生繰り返し、かつての恋人イチを捜し続けている。一方、パートナーのアミは初めての「椰々子」としての生活にもかかわらず、大人に憧れ次の「生壁こし」で子供となることを選び大人になりたいとリミに打ち明ける。また、リミの親友であるラキは「椰々子」でありながらも大人の女性を愛してしまい、彼女を失いたくない一心で大人の素性を暴こうとする。
リミはラキの頼みを断れずに共に大人の素性を探りはじめるのだが、その過程でかつての恋人イチが「生壁こし」で子供になることを選び大人に成長し老いて死んでいたことを知る。恋人イチはなぜ死んで「青い世界」へ行ってしまったのか。その答えを求めるうちに、リミは本当の大人の意味に気付く。そして「生壁こし」の日は目前に迫り、それぞれが決断を下す時がやってきた。

選評

個性的な世界を打ち立て、成長とは何か、愛とは何かを主題にし、深く生と死への意味に切り込んだ作品。独特な世界観が光る異色作。個性的で特異なキーワードが多用されているため序盤は読みづらさを覚えるが、一度この作品世界に入り込んでしまうとラストまで一気に読ませる力を持つ。難しい設定をあえて描いているが、ストーリーも良く練られており破綻は見られない。
ただし、比喩が多用されているため理解されづらい面を持つことが懸念される。しかし同時に、それこそがこの作者独自の世界を構築する上で欠かせない要素でもある。また、生と死についての洞察が強烈なため恋愛については若干希薄に感じる部分もあるが、表裏一体と言わんばかりに、生死の問題を問うことでパートナーへの愛情や恋人を追い求める愛の姿が密接に絡み合い浮き上がってくる。
結果として、人間の繋がりや恋愛についても良く描かれている作品と言えるであろう。

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