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『化粧坂』 林 由美子
源平争乱の時代。討死した義朝の息子たちと郎等は、全権を握る平氏を打倒し源氏の再興を果たそうと戦いを繰り広げている。その内の1人である義経と、都一の白拍子をめざす静。義経に仕える弁慶と、静に化粧をほどこす顔師の満月。物語はこの4人の男女の愛を中心に据えて、ダイナミックに展開していく。出生の分からない孤児の満月は白拍子の静と出逢い、静の顔師になるため京に行く。彼女は、そこで知り合った鬼若(後の弁慶)を慕うようになる。弁慶も満月を好きになっていく。静も鬼若が好きだったが、義経の寵妾になった後、本気で義経を愛するようになる。数年後、大人になった満月は、自分が源義賢の娘で義仲の妹だったと知らされる。それは、義経が満月の兄の仇だということだ。満月は義経を殺して兄の仇を討とうと考えるが、実は、満月の出自も義経の正体も、真実とはまったく異なるものだった。
選評
まずは、義経と弁慶という有名な歴史人物の話を自分で物語化するという着想自体、あっぱれと思う。文章も構成も抜群に上手い。緊迫感漂う冒頭で、読者を一気に物語の世界に引き込む手腕は、もはやプロなみだ。争乱の時代の複雑な血筋と人間関係を、自分の物語として読ませながら、うまく説明してもいる。少しだけ登場する人物の性格や考えもしっかり描いているので、すべての人物が物語の中でのびのびと動き迫力がある。恋という言葉も知らない満月が、鬼若(弁慶)に惹かれていく過程と様子、弁慶が何も言わずに満月を思う気持ちもビビッドに描かれ、読み手までドキドキしてくるほどだ。 だがしかし、元々の義経や弁慶の物語をきちんと知った上でないと、この作品を楽しんで最後まで読み通すのはきつい。そもそもが、誰がどういう関係なのか分かりにくい上に、この作品は、さらにそこに、幾つも人物の入れ替わりを仕組んでいるからだ。真実が明らかにされる場面が唐突だったり、満月の真の出自が発覚した経緯を最後にまとめたせいだろうか。肝心の、その入れ替わり自体が分かりにくかった。そこをもう一度整理すると、もっとずっと、この作品の良さが引き立つと思う。いずれにせよ、今回のこの作品が最終的にどう評価されようと、著者は近いうちにプロの作家になると確信する。