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『style』 広木 赤
俺・江角一弥は高専に通う学生。リストカット癖のある私・矢尾猫子のもうひとつの性癖である万引きの現場に居合わせ、結果的に彼女を助ける。一弥はバイト先の店長入谷沙織に好きだと告白される。一弥に助けられたことで猫子は淡い恋心を抱く。彼女がバイトをするファミレスでの友人タマ子は、少々妙なところのある少女だが、一弥の居合わせた駅で電車に飛び込み自殺する。タマ子の指を拾い持ち帰る一弥。彼は沙織と付き合うことにする。猫子は一弥と沙織の店にやって来て、リストカットの傷を見せ、初めてことばを交わし、互いの名を知り、一弥にキスをする。一弥は沙織と結婚することにする。リストカットをはかり、入院した猫子に呼び出された一弥が差しだしたタマ子の指を、猫子は彼に「また会えるために」と託す。そして二人は別れる。
選評
ノイズまでがすべて正確に写譜された、どこにもない楽譜を読んでいるような力強い文体。無駄な語句がひとつもなく、奇妙で悪趣味で痛々しい恋物語を構成しているのにも舌を巻いた。血や生傷や死体といった断片(フラグメント)に対する強いこだわりも、安っぽく耽美なものにはなっておらず疾走感あふれる物語に説得力を与えている。自分の傷をさらけだしてあがくこれまでの「自傷行為の物語」とは違い、一弥も猫子もあがかないし、過去のトラウマ的出来事(猫子の場合は両親のセックス場面の目撃体験が一応あるが)がほのめかされたり、おためごかしの意味を与えられたりすることもない。改悛もなく、後悔もない。この強烈なペアが結ばれることもない。過剰なまでの「可憐さ」の記号を与えられたサブヒロインのタマ子は、無惨に死んでいき、その生にも死にも意味は見いだせない。それにもかかわらず読み終えた時にすがすがしさを感じてしまうのは、登場人物たちの誰もが「憐憫」を欠いているからだ。訳知り顔に説教を始めるものが語り手を含めて誰もいないことが、こんなに荒っぽい励ましになるとは思わなかった。10代の作者の手によるものであるということに驚くと同時に納得させられる。今、この刹那にしか書けない、という叫びのようなものに、圧倒させられた。映像化されるとどうしてもグロテスクな場面がクローズアップされると思うが、それを理由にこの作品を切ってしまうのは惜しいと思う。