第二次選考通過作品詳細

『埋め込み式。』 佐々木 やち

捕らえた「彼女たち」を「逃がしてあげる」といいながら、自殺を促し殺してゆく「彼」。「彼女」を最後の一人として生かしておきながら共犯者に仕立てるが……。「忘却」は、繰り返される毎日のためにある。二度と忘れられない思い出は、忘却から逃してやるようにそっと隠される。殺人と忘却の幻想曲。世界が代謝を図った瞬間を描いた究極のラブストーリー!

  • 町口

    これは問題作ですね。僕はこの手の作品が単純に好きです。具体的な作家の名前を挙げれば、ジャン=フィリップ・トゥーサンとか、日本の作家で言えば●●●●とかいったテイストで、彼らよりもっと構成力をパワーアップしたもの、それを15歳が書いているということにショックを受けた。だから今後、彼女がデビューして作品を書いていくのが楽しみなんですよ。次作以降もどんどん読んでいきたいし、もし今回は落とされても、何らかの形で彼女を、フォローアップしてデビューさせてあげたいな、と思います。

  • ──三村さんも○ですよね。

  • 三村

    これはだめだと思うんですよ。最終的には大賞は獲らない。傷が多すぎるのは確かなんだけど、でも、書き手として魅力がありますよ。

  • 町口

    この人は伸びるよ。いい編集者と出会えばね。

  • 三村

    タイミング的にこの作品で世に出ることが良いとは、正直全然思わないんですけど、でも、ものすごく面白いので。

  • 町口

    映像化した場合にわけわかんないという意見も出てくると思うけれど、現実を正確に描写しないメタフィクションっていうことでいいんじゃないですか。今回一次審査からいろいろな作品を読んできたんですけど、メタフィクションってほとんどなかった。

  • 神田

    ラブストーリーでそれを狙う人もあまりいないと思うけど。

  • 町口

    だからそれをあえて狙ったところに才能を感じる。さまざまな仕掛けを用いてメタフィクションを15歳の彼女が書いているというのがすごい。

  • 彌永

    私も読んでまず驚いて、この人すごいな、という気持ちがそのまま評価につながったという感じです。こういう賞の中でもまれていって、最後に残る作品では確かにないと思います。ただやはり、読んだ後にこういうひっかかりが残る感じを大切にしたほうがいいのかな、と。

  • 町口

    これをこの場で落とすんだったら僕はちょっと問題だと思います。

  • 三村

    最終的に大賞を獲ると思います?

  • 町口

    思わない、だけど二次通過の10作には残したい。

  • 横須賀

    注目されることがこの人にとってプラスになるのならば選に入れてあげたいと思いますけど。これでデビューしちゃうのはちょっと可哀相かも。

  • 神田

    私はこれ本当に傷だらけだと思いますよ。おませな女の子が大人の世界に憧れて想像で創っちゃった感じ。まず出てくる女の人がびっくりするくらい似通ってて無個性。それぞれに女優A~Eをキャスティングしたとして、誰と誰を入れ替えても話が成り立つくらい、女の人のキャラクターが同じ。"大人の女の人は口紅をつけていてハイヒールを履いている"みたいなイメージに毛が生えた程度の人物造形しかできていないのは問題ですよね。あとリアリティの獲得という意味でもかなり想像で書いちゃっている部分があって、警察の動きとか、地方マスコミの動きとか、矛盾が目立つ。もうちょっといじるだけで断然リアリティ増すのに、と思う部分があるんですが、そこまで目が回るには彼女がもっと大人になってから、だと思いますよ。

  • 町口

    キャラクターの解体とか、物語の脱中心化とか、メタフィクションだから、そういうものでしょう。わけわかんなくていいんじゃない?

  • 神田

    それにしては変に現実に引っ張られている感じがある。殺すシーンがもっとシュールだったらメタレベルでいけたかもしれないけど、変に現実的で、変に幼くて、そこら辺のバランスの悪さが読んでいて気持ち悪い。

  • 三村

    その悪さがいいと思ったんですけど。

  • 町口

    最近10代でデビューした作家と比較しても、彼女は個性が際だっていると思います。

  • 諏訪

    僕は作品としての評価は先ほどの神田さんと同意見なんですが、これを10本の二次通過作の中に入れるのは面白いと思いますよ(笑)。実際には、僕はこういう10代の人のうまさってあまりかわないんですけどね。

  • 岡部

    私は読んでいて作品にちょっと入り込めなくて、まだ書き切れていない感じなのかなという印象があったんですけど。

  • 私は全然だめでしたね。読点と句点をわざと入れ替えて使ったりするような、そういう個性はちょっと理解できないんですよ。すごいとは思うんですけど。ただ、携帯で文章をたくさん書いている世代だったらもしかしたらあるのかもしれないなあ、と。殺していくのもゲームとかをやっている影響でやっているのかなあ、とか、薄っぺらかもしれなくて申し訳ないですけど、そういう読み方しか自分の中ではできなくて。面白いのかもしれないけど、これくらいで、変な言い方、調子に乗らせてしまったら、この子がかわいそうかな、と。文章とか世界観とかも、もう少ししっかり読ませて欲しかったなと思います。メタフィクションという世界を私がわからないからかもしれないんですが、書き殴った感じがしました。確かに全編を通してこういう感触だったのは、この作品だけだったので、新しさ、個性はすごいと思うんですけど、10代というだけで話題に取り上げすぎと私は全体的に感じています。

  • 町口

    まったく意見分かれましたね。

  • 神田

    賛否両論あるのはいい作品、という見方もあるから、これはいい作品なのかもしれないけど。でも私は否の方につきたいですね。

  • 町口

    作品が完成されすぎた普通の小説なんか読む気が起こらない。この「埋め込み式。」の場合は、完成されていない、またこれからどんどん伸びていくよっていうすごい可能性があって、この作者がどれだけ文壇で暴れてくれるか、って考えました。今、メタフィクションが低迷気味で、そういう意味で僕は面白くなさすぎなんですよ。純文学フィールドで彼女が出てくると面白くなるんじゃないかな。

  • 神田

    だったら純文学の方に投稿すべきであって。それはここで俎上にあげて判断するべきことじゃないですよね。賛否両論のある作品はいい作品だっていう考え方はこの場で提示できたと思うし。

  • 町口

    本当にこの作品の評価は分かれているよね。

  • でもよかったと思うのは、私の一次担当分にこれが入ってきたら絶対に通過しなかったんですね。だからいろいろな巡り合わせってありますよね。

  • 町口

    それはありますよね。

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